ゲームセンターのざわめきの中、私は夕燈に手を引かれ、プリクラ機のカーテンの中へと押し込まれた。
「ひよ、こっち」
グッと腕を引かれた瞬間、夕燈の胸に軽く押し当てられる形になって——……近い。ていうか、抱きしめられてる?夕燈の体温がじんわり伝わってきて、ふわっと柑橘の香りがした。同じ洗剤のはずなのに、どうしてこんな爽やかな匂いになるんだろう。体温と香りが混ざって、胸の奥がじわっと熱くなる。
「ここ、入ろうよ!あ、もう人いるね」
「ほら、向こう行こうぜ」
外から聞こえるだるそうな朝陽 の声が遠ざかっていく。夕燈の腕の中で、心臓の音が自分でもわかるほど響いていた。
「もう行ったよ?」
私がそう言うと、
「そうだね」
答えるのに、腕を離さない。……なんで?そう思い夕燈を見上げる。
「はなして」
「あ、うん」
夕燈はふわりと笑って、そっと腕を離した。その仕草が妙に優しくて、余計に胸がくすぐったい。
「せっかくだし、撮ろうよ」
照れ隠しに指をさす。
「うん」
コインを入れて、二人で並んで撮影する。画面のカウントダウンがやけに早く感じた。プリクラが出てきて、二人で覗き込む。
「すごいね。目がおっきい」
夕燈が目をぱちぱちさせる。
「ほんとにね。夕燈、女の子みたい」
「うーん……ひよは実物のほうが可愛いね」
夕燈がふっと笑う。……ほんとずるい。胸の奥がじわっと熱くなるのがわかる。
帰り道、車道側を歩いていると——
「危ない」
夕燈がそっと私の腕を引いた。
「び、びっくりした!ありがとう」
「うん」
そのまま手を離さず歩く夕燈。夕暮れの光に照らされた横顔は、儚いくらい綺麗だった。
——そしてやっぱり気になってしまう、あの夢。この優しい手が私の首を絞める?名前を呼んで、可哀想といって。そんなこと、あるはずない。そう思いたいのに、胸の奥がひりっと痛む。
「ひよ?どうしたの」
夕燈の声が柔らかく響く。その優しさが、逆に胸を締めつけた。
「なんでもないよ」
そう言った私に夕燈は握る手に力を込める。
「ひよはさ、陽だまりみたいだよね」
夕燈がそう言った瞬間、胸の奥がふわっと熱くなった。夕暮れの帰り道にやさしく響く。
「え?そう?」
思わず聞き返してしまう。だって、そんなふうに言われたこと、今まで一度もなかった。
「うん、ひよがいると明るくてあったかい気持ちになるんだ」
夕燈は照れもせずに言った。そのまっすぐさが、胸に刺さる。夕燈はいつも少し寂しそうで、どこか影があって、そんな人がこんなふうに言ってくれるなんて思わなかった。
「て、照れるなー」
顔が熱くなって、思わず夕燈から視線をそらす。夕燈の言葉が、心の奥の柔らかいところをそっと撫でていく。
「ふふ」
夕燈が穏やかに笑う。私からしたら、夕燈のほうが、あったかいのに。夕燈がそばにいると、胸の奥がじんわりして優しい気持ちになれる。家に近づいてくると夕燈はそっと手を離した。少し名残惜しな。もう少しだけ繋いでいたかったと思うのはおかしいことだろうか。
「ただいま」
玄関に入った瞬間——
「ひより!夕燈!!」
母の鋭い声が飛んできた。怒りと心配が一気に爆発したみたいに、私達へ詰め寄る。
「遅かったじゃない!どこ行ってたの。何度も電話したのよ、出なかったでしょ!ちゃんと連絡しなさい」
母の声は震えていて、目は完全に“心配の怒り”になっていた。夕燈は一瞬だけまばたきをして、すぐに落ち着いた声で答える。
「ひよと本屋に寄ってたんだ。ひよが参考書が欲しいって言ってたから」
……しれっと嘘つくじゃん。テストが終わったばかりで私は勉強はしたくないぞ。でも、この状況でゲーセンなんて言ったら母が倒れそう。
「本屋?こんな時間に?ネットで買えばいいじゃない!」
母の声はさらに強くなる。夕燈はまったく動じず、静かに言った。
「手にとって見たかったから。ね、ひよ」
夕燈がこちらに目を向ける。
「う、うん」
その一言で、母の勢いが少しだけしぼむ。夕燈の落ち着きと優しさに、怒りが吸い取られていくみたいだった。私は横でそっと息をつく。夕燈の嘘は、やっぱり優しい嘘だ。
「ひよ、こっち」
グッと腕を引かれた瞬間、夕燈の胸に軽く押し当てられる形になって——……近い。ていうか、抱きしめられてる?夕燈の体温がじんわり伝わってきて、ふわっと柑橘の香りがした。同じ洗剤のはずなのに、どうしてこんな爽やかな匂いになるんだろう。体温と香りが混ざって、胸の奥がじわっと熱くなる。
「ここ、入ろうよ!あ、もう人いるね」
「ほら、向こう行こうぜ」
外から聞こえるだるそうな朝陽 の声が遠ざかっていく。夕燈の腕の中で、心臓の音が自分でもわかるほど響いていた。
「もう行ったよ?」
私がそう言うと、
「そうだね」
答えるのに、腕を離さない。……なんで?そう思い夕燈を見上げる。
「はなして」
「あ、うん」
夕燈はふわりと笑って、そっと腕を離した。その仕草が妙に優しくて、余計に胸がくすぐったい。
「せっかくだし、撮ろうよ」
照れ隠しに指をさす。
「うん」
コインを入れて、二人で並んで撮影する。画面のカウントダウンがやけに早く感じた。プリクラが出てきて、二人で覗き込む。
「すごいね。目がおっきい」
夕燈が目をぱちぱちさせる。
「ほんとにね。夕燈、女の子みたい」
「うーん……ひよは実物のほうが可愛いね」
夕燈がふっと笑う。……ほんとずるい。胸の奥がじわっと熱くなるのがわかる。
帰り道、車道側を歩いていると——
「危ない」
夕燈がそっと私の腕を引いた。
「び、びっくりした!ありがとう」
「うん」
そのまま手を離さず歩く夕燈。夕暮れの光に照らされた横顔は、儚いくらい綺麗だった。
——そしてやっぱり気になってしまう、あの夢。この優しい手が私の首を絞める?名前を呼んで、可哀想といって。そんなこと、あるはずない。そう思いたいのに、胸の奥がひりっと痛む。
「ひよ?どうしたの」
夕燈の声が柔らかく響く。その優しさが、逆に胸を締めつけた。
「なんでもないよ」
そう言った私に夕燈は握る手に力を込める。
「ひよはさ、陽だまりみたいだよね」
夕燈がそう言った瞬間、胸の奥がふわっと熱くなった。夕暮れの帰り道にやさしく響く。
「え?そう?」
思わず聞き返してしまう。だって、そんなふうに言われたこと、今まで一度もなかった。
「うん、ひよがいると明るくてあったかい気持ちになるんだ」
夕燈は照れもせずに言った。そのまっすぐさが、胸に刺さる。夕燈はいつも少し寂しそうで、どこか影があって、そんな人がこんなふうに言ってくれるなんて思わなかった。
「て、照れるなー」
顔が熱くなって、思わず夕燈から視線をそらす。夕燈の言葉が、心の奥の柔らかいところをそっと撫でていく。
「ふふ」
夕燈が穏やかに笑う。私からしたら、夕燈のほうが、あったかいのに。夕燈がそばにいると、胸の奥がじんわりして優しい気持ちになれる。家に近づいてくると夕燈はそっと手を離した。少し名残惜しな。もう少しだけ繋いでいたかったと思うのはおかしいことだろうか。
「ただいま」
玄関に入った瞬間——
「ひより!夕燈!!」
母の鋭い声が飛んできた。怒りと心配が一気に爆発したみたいに、私達へ詰め寄る。
「遅かったじゃない!どこ行ってたの。何度も電話したのよ、出なかったでしょ!ちゃんと連絡しなさい」
母の声は震えていて、目は完全に“心配の怒り”になっていた。夕燈は一瞬だけまばたきをして、すぐに落ち着いた声で答える。
「ひよと本屋に寄ってたんだ。ひよが参考書が欲しいって言ってたから」
……しれっと嘘つくじゃん。テストが終わったばかりで私は勉強はしたくないぞ。でも、この状況でゲーセンなんて言ったら母が倒れそう。
「本屋?こんな時間に?ネットで買えばいいじゃない!」
母の声はさらに強くなる。夕燈はまったく動じず、静かに言った。
「手にとって見たかったから。ね、ひよ」
夕燈がこちらに目を向ける。
「う、うん」
その一言で、母の勢いが少しだけしぼむ。夕燈の落ち着きと優しさに、怒りが吸い取られていくみたいだった。私は横でそっと息をつく。夕燈の嘘は、やっぱり優しい嘘だ。

