倒れた日は母が迎えにきて、家に帰った。夕飯も食べやすいうどんを用意してくれた。少ししか食べられなくて申し訳なかったけれど。そして数日経ち…現在夜の21時半。
「ねぇ、なんでいるの?」
ベッドに腰掛けながら、私は目の前の夕燈を見つめる。
「なんでって、ひよが寝れるように見張りに来たの」
夕燈はニコニコしながら、私の部屋の椅子に腰掛ける。ピンクと白を基調にした、可愛らしすぎる部屋。私には似合わない気もするけど、母がこの部屋を私以上に気に入っている。最近は悪夢も減ってきた。
「大丈夫だよ。夕燈が淹れてくれたお茶も飲んだし」
夕燈は最近、眠れるようにってピンクのルイボスティーを淹れてくれる。朝陽はリラックス効果があるってラベンダーのフレグランスをくれた。
「ほんと二人とも過保護だよねー」
嬉しいけど少しむず痒い。
「だって、ひよが大事なんだもん。仕方ないでしょ?」
夕燈がこてんと首を傾げて続ける。
「前みたいに寝れなくて倒れたら心配だから。寝るまではここにいるよ」
そう言って、ポンポンとベッドを叩く。
「逆に寝れないよ。見張られてると」
ぎゅっと睨んでみるけど、夕燈はまったく気にしていない。
「いいから。はい、お布団に入る」
夕燈は穏やかだけど、意外と推しが強い。ここで拒否しても絶対私がベッドに入るまでいそうなので、とりあえず素直に従う。
「……うん、良い子」
五歳児扱いされている気がする。
「眠れない」
布団を口元まで引っ張る。
「じゃあ、読み聞かせしてあげるよ」
「え? 絵本!?」
思わず、声をあげる。だけど夕燈はゆっくり首を振る。
「憲法第一条は――」
そう言った瞬間、夕燈は急に“授業モード”に入った。
「日本国の象徴は天皇であって、その地位は国民の総意に基づく。国のあり方は“みんなで決めるもの”ってこと。
それから第二条は皇位の継承についてで、第三条は国事行為には内閣の助言と承認が必要で……」
淡々と、止まらず、まるで暗唱のように続ける。
「第四条では天皇は国政に関する権能を持たないって定められていて、
第五条は摂政の権能、六条は国会の召集や認証、七条は国事行為の具体的な内容……」
長い。とにかく長い。そして夕燈は一切噛まない。一度も止まらない。
「八条は皇室財産と皇室費用の扱いについてで――」
「……夕燈」
思わず睨む。覚えているのもさすがだし、将来弁護士になるために勉強しているのも知っているけど、その読み聞かせは絶対にない。ほんとにない。
「え? まだ第一章の途中だよ?ここから人権の章に入るところ。十三条は“個人の尊重と幸福追求権”で、ひよが幸せに生きる権利のこと。十四条は法の下の平等で――」
「もういい……眠くなる……」
本当に眠くなる。夕燈の声は一定で、落ち着いていて、まるで子守歌みたいに頭の奥に響いてくる。身体がゆっくり沈んでいく。あんなに眠れないと思ったのに、不思議とまぶたが、落ちていった。
「……ひよ、寝た?」
夕燈がそっと覗き込む気配がする。私は返事できない。まぶたが重くて、もう開かない。夕燈の声が、遠くで続いている。心地よい。
「おやすみ、ひよ。夢の中まで守りにいけたらいいんだけどね」
その言葉が、ふわりと胸に落ちて――私は静かに眠りに落ちた。
「ねぇ、なんでいるの?」
ベッドに腰掛けながら、私は目の前の夕燈を見つめる。
「なんでって、ひよが寝れるように見張りに来たの」
夕燈はニコニコしながら、私の部屋の椅子に腰掛ける。ピンクと白を基調にした、可愛らしすぎる部屋。私には似合わない気もするけど、母がこの部屋を私以上に気に入っている。最近は悪夢も減ってきた。
「大丈夫だよ。夕燈が淹れてくれたお茶も飲んだし」
夕燈は最近、眠れるようにってピンクのルイボスティーを淹れてくれる。朝陽はリラックス効果があるってラベンダーのフレグランスをくれた。
「ほんと二人とも過保護だよねー」
嬉しいけど少しむず痒い。
「だって、ひよが大事なんだもん。仕方ないでしょ?」
夕燈がこてんと首を傾げて続ける。
「前みたいに寝れなくて倒れたら心配だから。寝るまではここにいるよ」
そう言って、ポンポンとベッドを叩く。
「逆に寝れないよ。見張られてると」
ぎゅっと睨んでみるけど、夕燈はまったく気にしていない。
「いいから。はい、お布団に入る」
夕燈は穏やかだけど、意外と推しが強い。ここで拒否しても絶対私がベッドに入るまでいそうなので、とりあえず素直に従う。
「……うん、良い子」
五歳児扱いされている気がする。
「眠れない」
布団を口元まで引っ張る。
「じゃあ、読み聞かせしてあげるよ」
「え? 絵本!?」
思わず、声をあげる。だけど夕燈はゆっくり首を振る。
「憲法第一条は――」
そう言った瞬間、夕燈は急に“授業モード”に入った。
「日本国の象徴は天皇であって、その地位は国民の総意に基づく。国のあり方は“みんなで決めるもの”ってこと。
それから第二条は皇位の継承についてで、第三条は国事行為には内閣の助言と承認が必要で……」
淡々と、止まらず、まるで暗唱のように続ける。
「第四条では天皇は国政に関する権能を持たないって定められていて、
第五条は摂政の権能、六条は国会の召集や認証、七条は国事行為の具体的な内容……」
長い。とにかく長い。そして夕燈は一切噛まない。一度も止まらない。
「八条は皇室財産と皇室費用の扱いについてで――」
「……夕燈」
思わず睨む。覚えているのもさすがだし、将来弁護士になるために勉強しているのも知っているけど、その読み聞かせは絶対にない。ほんとにない。
「え? まだ第一章の途中だよ?ここから人権の章に入るところ。十三条は“個人の尊重と幸福追求権”で、ひよが幸せに生きる権利のこと。十四条は法の下の平等で――」
「もういい……眠くなる……」
本当に眠くなる。夕燈の声は一定で、落ち着いていて、まるで子守歌みたいに頭の奥に響いてくる。身体がゆっくり沈んでいく。あんなに眠れないと思ったのに、不思議とまぶたが、落ちていった。
「……ひよ、寝た?」
夕燈がそっと覗き込む気配がする。私は返事できない。まぶたが重くて、もう開かない。夕燈の声が、遠くで続いている。心地よい。
「おやすみ、ひよ。夢の中まで守りにいけたらいいんだけどね」
その言葉が、ふわりと胸に落ちて――私は静かに眠りに落ちた。

