祈りを紡ぐ明日から

「とりあえず少し寝る」
そう言って、机に突っ伏す。
「おう、おやすみ」
吉川はくるりと前を向いた。そこの席にいるのか。まあいいけど。しばらくすると、教室が賑やかになってきた。
「おはよう、日和。今日、お兄さん達と一緒じゃなかったの?」
恵那がこちらを覗き込む。
「うん」
グッと伸びをする。身体が痛い。あんまり寝られなかった。
「顔色ヤバいけど、大丈夫?」
恵那が目をまん丸にして見つめてくる。
「平気」
そう言って手を軽く上げる。
「無理しないでね」
「ありがとう」
笑って返した。

臨時集会が開かれ、体育館に並ぶ。校長先生の長い挨拶。教頭の話。だめだ、ふらふらしてきた。しゃがもうか――そう思ったときにはもう遅く、目がチカチカして真っ白になり、身体が後ろへ倒れる。あ、だめだ。そう思った瞬間、すぐ近くにいた吉川が腕を支えてくれて、しゃがみ込むように足が崩れた。
「おい、大丈夫か?」
耳元で何か言われているけれど、よく聞こえない。ざわめきが広がる。ふと長い足が視界に入る。
「変わるよ」
誰かがそう言い、私のスカートの上にブレザーをそっとかける。膝の後ろに腕がまわり、身体がふわりと持ち上がる。だれ……?うっすら目を開ける。
「ゆ、夕燈?」
名前を呼ぶと、夕燈は少し驚いた顔をして、すぐに目を細めた。
「このまま保健室つれていくね」
その直後、朝陽の声がする。
「夕燈、変わるか」
そうだ。夕燈に負担をかけるわけにはいかない。喘息は前より良くなったけれど、激しい運動は禁止されていて、体育は基本休んでいる。私を抱えて運ぶなんて大変じゃないのかな――そんな考えが、ふわふわと浮かんでくる。
「大丈夫」
夕燈の短い言葉。朝陽がじとっとこちらを見る気配がしたけれど、もう目を開けていられず、そっと閉じた。
ギシッ、とベッドが沈む。
夕燈にそっと下ろされ、上履きを脱がされる。それから布団をかけられた。
「夕燈……ごめん。重かったよね」
うっすらと目を開ける。
「軽すぎるぐらいだよ。それより、調子悪いなら休めばよかったのに」
夕燈は目を細め、私の頭を優しく撫でた。大きくて、少し強張った手。だけど触れ方は驚くほど優しい。
「ほんとにな。勝手に一人で学校来て倒れるって、どうなってんだよ」
朝陽が不機嫌そうにこちらを見る。声は冷たいのに、どこか心配が滲んでいる。
「ごめんって」
「それより……眠れてないの?」
夕燈が私の目の下のクマを、人差し指でそっとなぞる。
「うん、少し」
「なんで? 勉強してるの?」
夕燈がこてんと首を傾げる。
「え?してない」
「あ、してないのか。てっきり中間テストの勉強してるのかと思ったけど、違ったんだ」
そう言って軽く笑う。
「……こいつが勉強しすぎでクマ作るタイプじゃねぇだろ」
朝陽が顎でこちらを指す。というか中間テスト……もうすぐだったっけ?あれ?目がぐるぐるする。身体が考えることを拒否している気がして思わずぎゅっと目を閉じた。
「とりあえずゆっくり休みな。母さんに連絡入れておくから」
夕燈がすっと頭を撫でる。
「ったく、具合悪いなら無理すんなよ。迷惑だから」
朝陽の声はぶっきらぼうなのに、どこか優しい。
「ありがとう」
そう言った瞬間、自然とまぶたが閉じていった。