暗い闇の中。
「ひよ…お前は可哀想だよ」
柔らかい声が、首筋に触れた手と一緒に落ちてくる。その優しさと、締めつける痛みが同時に襲う。息ができない。誰?顔は見えない。闇が濃すぎて、輪郭すら掴めない。目を開けた瞬間、全身が汗で張りついていた。手は震え、心臓はまだ逃げ場を探している。最近、同じ悪夢ばかり見る。首元に触れると、夢の中の指の感触がまだ皮膚に残っていた。殺される夢。顔はぼやけているのに、私の名前だけははっきり呼んだ。——私には双子の兄弟がいる。私を殺そうとするのは、二人のどちらかだ。
だって、私をひよと呼ぶのはその二人だけ。私は御上 日和(みかみ ひより)、16歳。
「ひより〜朝よ。起きて」
母の声が階下から響く。
「いまいく」
返事をして部屋を出る。階段を降り、洗面台に向かう。冷たい水で顔をすすぐ。鏡の中の自分と目が合った。ひどい。目の下のクマは濃く、肌はいつも以上に青白い。胸まで伸びた髪、前髪は寝癖で跳ねて、まるで夜の悪夢をそのまま連れてきたみたい。すると——
「邪魔」
肩を軽く押される。さらりとした茶色の髪、整った顔立ち。双子の兄、朝陽(あさひ)だ。
「…朝陽。おはよ」
「おはよじゃねぇよ。すごい顔。ゾンビみたいだな。まさかそのまま学校行く気か?」
眉を寄せながら、朝陽は私の髪にスプレーをシュッ、シュッ。
「ちょ、やめてよ」
文句を言う間もなく、器用な手つきで寝癖を整えていく。数秒で、私の髪はいつもの形に戻った。
「……ありがと」
一応礼を言う。
「俺が恥ずかしいんだよ。こんなだらしない妹いたら」
「ひど。夕燈はそんなこと言わないもん」
「はいはい。あいつは甘ぇからな」
朝陽は呆れたように笑う。
「ほら、さっさと来い。遅刻すんぞ」
その背中を見つめると、胸の奥がざわついた。夢の中の出来事がまだ残っていて思わず首元に触れる。リビングに向かう。太陽の光、テレビの音、朝ごはんの匂い。いつもの日常。
「おはよう、朝陽、ひより。早く食べなさい」
母がキッチンで手を洗いながらこちらをみる。ゆるりとパーマがかかった髪を一つにまとめて、花柄のエプロンをつけている。
「おはよう、お母さん」
私は母に挨拶して席に座る。朝陽は返事もせず、無言のまま椅子に腰を下ろした。その態度に誰も何も言わない。反抗期というより、これが“朝陽の普通”だ。
「おはよう、ひよ」
柔らかく笑ったのは、双子の弟・夕燈(ゆうひ)。
「おはよう、夕燈。調子はどう?」
「今日は調子いいよ」
「そっか、よかった。」
朝陽と夕燈は、顔立ちはそっくりなのに性格はまるで違う。双子の兄・朝陽は、物事をはっきり言うタイプで、勉強も運動もできて要領がいい。そして驚くほどモテる。あれだけ口が悪いのに……本当に不思議。逆に夕燈は本が好きで物知り。穏やかで優しくて、喘息持ちだから運動は控えめ。勉強も得意で、全国模試ではトップクラスだ。そして私は、そんな出来の良い兄たちの妹。学力も顔も、正直ふつう。よく言われる。——「いいところ全部、お兄ちゃんたちに持っていかれたね」笑って言われるけれど、胸の奥が少しだけチクリとする。
「ひよ…お前は可哀想だよ」
柔らかい声が、首筋に触れた手と一緒に落ちてくる。その優しさと、締めつける痛みが同時に襲う。息ができない。誰?顔は見えない。闇が濃すぎて、輪郭すら掴めない。目を開けた瞬間、全身が汗で張りついていた。手は震え、心臓はまだ逃げ場を探している。最近、同じ悪夢ばかり見る。首元に触れると、夢の中の指の感触がまだ皮膚に残っていた。殺される夢。顔はぼやけているのに、私の名前だけははっきり呼んだ。——私には双子の兄弟がいる。私を殺そうとするのは、二人のどちらかだ。
だって、私をひよと呼ぶのはその二人だけ。私は御上 日和(みかみ ひより)、16歳。
「ひより〜朝よ。起きて」
母の声が階下から響く。
「いまいく」
返事をして部屋を出る。階段を降り、洗面台に向かう。冷たい水で顔をすすぐ。鏡の中の自分と目が合った。ひどい。目の下のクマは濃く、肌はいつも以上に青白い。胸まで伸びた髪、前髪は寝癖で跳ねて、まるで夜の悪夢をそのまま連れてきたみたい。すると——
「邪魔」
肩を軽く押される。さらりとした茶色の髪、整った顔立ち。双子の兄、朝陽(あさひ)だ。
「…朝陽。おはよ」
「おはよじゃねぇよ。すごい顔。ゾンビみたいだな。まさかそのまま学校行く気か?」
眉を寄せながら、朝陽は私の髪にスプレーをシュッ、シュッ。
「ちょ、やめてよ」
文句を言う間もなく、器用な手つきで寝癖を整えていく。数秒で、私の髪はいつもの形に戻った。
「……ありがと」
一応礼を言う。
「俺が恥ずかしいんだよ。こんなだらしない妹いたら」
「ひど。夕燈はそんなこと言わないもん」
「はいはい。あいつは甘ぇからな」
朝陽は呆れたように笑う。
「ほら、さっさと来い。遅刻すんぞ」
その背中を見つめると、胸の奥がざわついた。夢の中の出来事がまだ残っていて思わず首元に触れる。リビングに向かう。太陽の光、テレビの音、朝ごはんの匂い。いつもの日常。
「おはよう、朝陽、ひより。早く食べなさい」
母がキッチンで手を洗いながらこちらをみる。ゆるりとパーマがかかった髪を一つにまとめて、花柄のエプロンをつけている。
「おはよう、お母さん」
私は母に挨拶して席に座る。朝陽は返事もせず、無言のまま椅子に腰を下ろした。その態度に誰も何も言わない。反抗期というより、これが“朝陽の普通”だ。
「おはよう、ひよ」
柔らかく笑ったのは、双子の弟・夕燈(ゆうひ)。
「おはよう、夕燈。調子はどう?」
「今日は調子いいよ」
「そっか、よかった。」
朝陽と夕燈は、顔立ちはそっくりなのに性格はまるで違う。双子の兄・朝陽は、物事をはっきり言うタイプで、勉強も運動もできて要領がいい。そして驚くほどモテる。あれだけ口が悪いのに……本当に不思議。逆に夕燈は本が好きで物知り。穏やかで優しくて、喘息持ちだから運動は控えめ。勉強も得意で、全国模試ではトップクラスだ。そして私は、そんな出来の良い兄たちの妹。学力も顔も、正直ふつう。よく言われる。——「いいところ全部、お兄ちゃんたちに持っていかれたね」笑って言われるけれど、胸の奥が少しだけチクリとする。
