文化祭まで、残り1週間を切った。
仮面読書会の準備は着々と進んでいる。今日はついに、当日使う仮面が完成したらしい。
「じゃーん」
誇らしげな声とともに、日鞠が机に向かって手を広げた。そこには、色とりどりの仮面が並んでいた。数は、30個……いや、もっとあるかもしれない。近づいて、デザインを眺める。
大きな黒い蝶々が目の部分に羽根をひろげている。きらきらと輝く小さなティアラ。
仮面からウサギの耳が伸び、バラの装飾があしらわれているものもある。
白や水色、オレンジなど、仮面の色だけが変わっているものもあった。
ピンク色のリボンがいくつもついている仮面。きつねの顔に桜がちりばめられている仮面。
黒と金色の刺繍でゴージャスにされているものもあれば、絵具でカラフルに彩られているものまである。
「すごい……」
すべて、違うデザインだった。
こんなにおしゃれな仮面なら、文化祭でつけたら恥じらうどころか、気分があがりそうだ。
「どうせなら、椿季と黒部くんのも作ろうよ」
「でもわたしたちは司会するからばれちゃうよ」
「うん。だけどかぶってたほうが雰囲気出るじゃん! どうせばれるからって素顔でやるより、全然いいよ!」
「……大変じゃない?」
加えて、二人分を作るなんて。たずねると、日鞠は「実は」とにやりと笑った。
「もう椿季と黒部くんのデザイン、浮かんでるんだよね。あとは作るだけって感じ」
「え」
「椿季と黒部くんってわかっちゃっても、いいんでしょ? あたし、その人に合わせたもの作るの、大好きなの!」
日鞠がパチンと手を合わせた。
「あと一週間後だけど、大丈夫?」
「うん。一週間もあれば全然大丈夫。まかせて!」
雫途くんのほうを見ると、こくりとうなずかれた。
その日の帰り道で、雫途くんと篠木こすもの姿を見かけた。ふたりは並んで歩いている。
篠木こすもの涼し気な横顔が見えた。思わず足を止めてしまう。
隣を歩いていた日鞠が「椿季?」と不思議そうに首をかしげて、わたしの視線の先を追った。
「黒部くんと篠木さんだ。あのふたり、たまに一緒に帰ってるよね。やっぱり隠れて付き合ってるのかな?」
日鞠の言葉が耳に届く。
雫途くんは、篠木こすもを幼馴染みと言っていた。幼馴染みなら、一緒に下校することもあるかもしれないし、なんら不思議なことではない。だけど。
『黒部くんにはちゃんと、特別な人がいるから』
『だから、同じ委員会だからって、勘違いはしないほうがいいよ』
この前の、晴里の言葉がよみがえる。
もし、ふたりがただの幼馴染みじゃなく、恋愛的な関係だとしたら。
「……っ」
喉を締め付けられるような不快感にむしばまれる。心臓のあたりが、押さえつけられているみたいに、苦しい。
これは、なに?
はやく楽になりたいのに、いっこうにおさまらない。
並んで歩くふたりが、より鮮明に目に映る。
目を逸らしたいのに、視線が囚われたように、目が動かない。瞼も、閉じない。
「椿季? 帰らないの?」
「あ……うん、帰る」
日鞠に声をかけられて、はじかれたように足が動いた。
やっぱり、晴里が言っていたことは本当だったのかもしれない。
いつも笑っている雫途くんと、無表情でたたずむ篠木こすもの顔が浮かぶ。
ふたりとも、何を考えているのか、わからない。
「……わかんないよ」
ぼやきは、空に溶けていった。



