君と僕だけの星空

モモの投稿は、瞬く間に拡散された。









『わかる! 警察に通報して黙秘とか、絶対にふたりだけの秘密を守ろうとしてるよね』





『太陽と月のふたり……切なすぎる……』








『週刊誌のくだらない金銭トラブル説より、こっちの方がしっくりくる』









 ネット掲示板やSNS上では、いつしかこの事件は「格差ゆえの惨劇」から「隠された二人の愛の悲劇」という新しいアングルで語られ始めていた。








 誰も、当事者の男の顔を見たわけではない。






 誰も、亡くなった青年の声を聞いたわけではない。






 それでもネットの住人たちは、匿名掲示板のたった一行の書き込みと、自分たちの好みの「物語」を掛け合わせ、真実など確かめようもない「美しい悲劇」を作り上げていった。












 二次創作の小説投稿サイトでは、早くもこの事件をモデルにした「暗い過去を持つ青年と、彼を愛した友人の逃避行」という小説が投稿され、多くの「いいね」を集め始めていた。









 コメント欄には、感動の涙を流す読者たちの言葉が並ぶ。





『泣きました。ふたりが天国で幸せになれますように』


『世間がふたりを許さなくても、私はこの愛を肯定したいです』










 部屋のベッドの上で、モモは自分の投稿についた無数の「いいね」とリポストの通知を眺めながら、満足そうにメロンソーダを飲み干した。











「ほらね、みんなも『こっちの物語』の方が好きなんだよ」







 世間が求める「金銭トラブルの悲劇」も。
 テレビが描く「友人の裏切り」も。
 そして、少女たちが勝手に夢見る「歪んだ愛の逃避行」も。
 すべては、外野の人間たちが自分たちの都合の良いように消費するために作り上げた、勝手な幻想に過ぎなかった。









 事件の当事者二人が、本当はどんな思いで夜の公園に立ち、どんな言葉を交わしたのか。











 それを知る者が誰もいないまま、ネットの海の片隅で、架空の「純愛ドラマ」だけが色鮮やかに一人歩きを続けていた。