君と僕だけの星空

「ねえねえ、例の薬物死のニュース見た? あの大学生が殺されたってやつ」







 学校帰りの高校生や大学生で賑わう、駅前のファミリーレストラン。







 ドリンクバーのメロンソーダをストローで混ぜながら、女子高生のモモがスマートフォンの画面を指で突いた。








「ああ、あの『太陽と月』とか言われてるやつでしょ? 週刊誌とかテレビでめっちゃやってるよね。金銭トラブルで殺したとかさ」











 向かいに座るユウカが、ポテトフライを口に運びながら気のない返事をする。











「そうそれ。でもさー、あのニュース見るたびに思うんだけどさ、絶対に『金銭トラブル』とかじゃないと思うんだよね」











「え? なんで? テレビの専門家みたいな人もそう言ってたじゃん」









「だってさ、自分から110番通報して『僕が殺しました』って言っといて、動機は完全黙秘だよ? 金目的で殺したなら、もっとうまく逃げようとするか、バレたなら『金が欲しくてやりました』って開き直るでしょ。なんで動機だけ頑なに黙ってんのって話」







 モモはフフッと怪しげに笑い、テーブルの上に身を乗り出した。






「私さ、ネットでいろいろ探してたら、ヤバい書き込み見つけちゃったんだよね。これ、二人の高校時代の同級生っぽい人のレスなんだけど」









 モモが差し出してきたスマホの画面を、ユウカは覗き込んだ。






【匿名掲示板の書き込み】



『事件のふたり、俺の高校の同級生だわ。 被害者の奴は明るくてクラスの中心にいるタイプ。加害者の奴はいつもクラスの隅にいるような暗い奴。 でもこのふたり、なぜかめちゃくちゃ仲が良くて、いつもふたりで放課後残ったり一緒にお昼食べたりしてた。
まさに『太陽と月』って感じだったけど、変に立ち入れない独特の空気感があったよ。』











「……へえ。高校のときから仲良かったんだ」






「でしょ!? クラスの中心の陽キャと、影の薄いボッチ男子。なのにふたりだけの世界があった……。ねえユウカ、これってさ、前に話したあのBL小説の展開に激似じゃない!?」






「えっ……BLって、まさか」ユウカが目を丸くする。







「そうだよ! 歪んだ愛なんだよ!」

モモは声を潜めつつ、興奮気味に身を乗り出した。










「ふたりは高校生の時からずっと、世間には言えない特別な関係だったの。恋仲だったんだよ。でもさ、大人になるにつれて、片方は有名大学に行ってキラキラした世界を生きて、片方は工場で働き詰めでしょ? 世間の目とか、お互いの将来の違いとかが二人の関係を許さなくなってきたわけ」







「うわ……なんかリアル」







「でしょ!? で、追い詰められたふたりは、綺麗な関係のまま終わりたくてふたりだけの逃避行に出たの。でも、片方は死んじゃって、残された加害者の男はふたりだけの秘密を守るために、警察でも絶対に口を割らない……。動機を言わないのは、ふたりの『愛の証明』なんだよ!」














 モモは自分の立てた推論に酔いしれるように、うっとりとため息をついた。









「テレビとか週刊誌は『金目当ての裏切り』とか惨めな事件にしてるけど、本当は『切なすぎる純愛の無理心中』なんだって。絶対にそう! 歪んでるけど、めちゃくちゃ尊くない!?」







「やば……めっちゃエモいじゃんそれ。もし本当なら、泣けるんだけど」








「でしょ!? 私、この解釈をSNSにまとめてポストしてみようかな。絶対バズると思うんだよね」








 モモは楽しそうにスマホのフリック入力を始めた。






『あの薬物死事件、金銭トラブルじゃなくて純愛説ない? 高校の同級生の証言見つけたんだけど……』










 画面をタップすると、投稿は一瞬でネットの海へと放たれた。