『【独占追跡】大学生薬物死事件の闇——自首した容疑者の「極貧生活」と消えた120万円』
藤原が書き上げた記事は、週刊誌のトップ記事として掲載された。
裕福で将来を期待されていた被害者。
家族を失い、手取りの少ない過酷な労働に耐える容疑者の男。
そして、ふたつの線が交差する「金銭トラブル」の疑惑。
断片的な証言を「事実の裏付け」として巧みに配置し、読んだ誰もが「貧しい加害者が、裕福な友人を脅して金を奪い、殺害後に恐ろしくなって自ら通報した」と確信する内容に仕上がっていた。
発売日、コンビニの店内で客たちの会話が聞こえてくる。
「見たか? この事件、やっぱり金目当てだったらしいぞ」
「自分で通報したのも、ビビってパニックになっただけだろ。勝手すぎるな」
ネット上でも記事が爆発的に拡散されていた。
『やっぱり金か。120万奪っておいて自分で通報とか意味不明すぎる』
『金目当てで殺しておいて動機は黙秘とか、どこまで身勝手なんだよ』
『被害者かわいそうすぎる』
世論は一気に「惨めな強盗殺人」へと傾いていった。藤原は胸の底から込み上げてくる優越感に震えていた。
自分が書いた記事が、世間の「答え」になったのだ。警察すら解明できていない動機を、自分の取材力が炙り出したのだ。
「やったな、藤原!」
編集部でデスクが缶ビールを放り投げてきた。
「重版決定だ。世間が知りたかったのは、まさにこれなんだよ」
藤原はモニターに映し出された移送中の男の顔写真を見つめた。前髪に隠れて表情は見えないが、その唇は固く結ばれている。
(自分で通報しておいて動機は黙秘……お前がいくら何も言わなくても、世間はお前が何をしたかを知ったぞ。いくら黙っていたって、事実は隠せないんだ)



