君と僕だけの星空

 翌朝、藤原は容疑者の男が勤めていた金属加工工場の門前に立っていた。





 出てきた工場長らしき男に名刺を突きつける。





「警察にも話したよ。あいつがそんなことするわけないってな。真面目で、文句ひとつ言わずに働いてたよ。事件の前日に急に『辞めます』って言ってきたときは驚いたが……自分で警察を呼んだって聞いて、何かの間違いじゃないかって……」









「金に困っている様子はありませんでしたか?」






「金……?」
工場長は首をかしげた。







「そりゃ贅沢はできないさ。身寄りもないしな。だが、借金があるようには見えなかったがね。ただ……一ヶ月くらい前かな。珍しく『給料日っていつでしたっけ』って聞いてきたことがあったな」










 藤原は手帳に素早くメモをとる。




 ——一ヶ月前から金銭に強い執着を見せ始めていた。










「あと、こんなこともありました」

通りかかった同僚の男が口を挟む。



「あいつ、最近は携帯見ながらすごく詰まったような顔してたんすよ。消費者金融のアプリとか見てたんじゃないすかね。僕らみたいな低賃金だと一回ハマったら終わりですから」





「消費者金融のアプリを見ていた……そう見えましたか?」






「いや、画面を見たわけじゃないスけど。あんな暗い顔してたら、大体そういう借金トラブルでしょ」







 事実確認としては曖昧だ。単に携帯を見ていただけかもしれない。だが、藤原の手帳の上では「金銭トラブルを裏付ける周囲の証言」へと変換されていく。









 次に藤原が向かったのは、被害者の大学生が住んでいたアパートだった。隣室の学生に話を聞く。






「被害者の方と交流はありましたか?」




「あ、はい……すごく感じのいい人でしたよ。育ちが良さそうというか。あ、そういえば」



学生は思い出したように指を立てた。






「亡くなる2日前、かな、夜中に前の通りで誰かと話してる声が聞こえました。『もうこれ以上は無理だよ』みたいなことを言っていた気がします」







「『これ以上は無理』……? 相手はどんな男でしたか?」








「ボソボソした暗い声の男でした。そしたら、『分かったから、場所を変えよう』って言って、二人で出て行ったみたいで」









 藤原の胸が高鳴った。これだ。











 被害者は、容疑者の男から継続的に金銭を要求されていた。問詰めに「もう無理だ」と拒絶した。だが押し切られ、口座から全額の百二十万円を引き出さざるを得なかった。アパートを解約したのも、男の執拗な集金から逃れるためだったのではないか。











 急激に追いつめられた二人は事件前日、街を飛び出し、現場となったあの公園へ向かった。そして交渉が破談し、全額を奪った男が薬を飲ませて殺害。罪の重さに耐えかねて自ら110番通報した——。










 完璧なストーリーだった。藤原はタクシーに飛び乗り、キーボードを猛烈な勢いで叩き始めた。