……目が覚めた。
「どうして」と思って横を見ると、君は微笑んで眠っていたね。ううん、息を引き取っていた。
「どうしてまた自分だけいけなかったのか」と困惑していると、君が反対の手に何かを握っていることに気づいた。
固く握られた紙を抜き取ると、そこには君の字でこう書いてあった。
『ごめんね、君を連れていくなんてこと、僕にはできなかった。君と出会えて良かったよ。ありがとう』
なんで置いていくんだよ……。
僕はその紙を燃やした。
そういえば、君が持っていたはずの百二十万円が入った鞄がないことに気づいたのは、そのあとだった。
僕たちが意識を失っている間に、誰か近くを通ったんだろうか。缶ビールと薬のシートが転がるベンチの脇から、お金だけが消えていた。
一瞬、怒りや虚しさが湧いたけれど、もうどうでもよかった。
お金が盗まれたなんて警察に言えば、きっと捜査が長引いて、君の苦しみや僕たちの関係まで根掘り葉掘り暴かれてしまう。
だから、警察に通報した。
「僕が友人に薬を飲ませて殺した」と。
「僕がやった」ということは言えたけれど、動機については嘘でも思いつかなかった。
だから、黙秘を貫いた。
警察からも、弁護士からも「本当のことを話せ」と何度も言われた。
でも、絶対に言わない。
もし僕が本当のことを話せば、世間は君を悪く言うだろう。
「社会に馴染めなかった可哀想な子だ」「弱いやつだ」と、好き勝手にレッテルを貼って消費するだろう。
そんなのあんまりだ。
君が世間からそんな目で見られる必要なんてどこにもない。
僕が「金目当てで殺した」と言えば、君は「突然未来を奪われた可哀想な被害者」として扱われる。それ以上のことは暴かれない。
それでいいんだ。
大丈夫、君が弱かったわけじゃない。
世間からの非難も、怒りも、勝手な物語も、全部僕が引き受けるよ。
僕は君に救われたんだから。
待っててね。



