君と僕だけの星空

小坂はパソコンの画面に目をやった。




 ネット上では、この事件に関するニュースが連日猛烈な勢いで消費されている。







『【独占追跡】消えた120万円と貧困の闇』






『悲劇の太陽と月——すれ違った二人の絆』






『ネットで話題、二人の間に隠された歪んだ愛』






『社会の構造が生んだ不条理な事件』










 週刊誌が「金銭トラブル」と煽り、テレビが「悲劇の友情」としてお茶の間に涙を流させ、ネットでは「歪んだ愛」や「生きづらさの象徴」として若者や社会人が自分勝手な物語を書き込んでいる。











「世間様は賑やかだな」先輩刑事は皮肉っぽく笑った。







「みんな自分たちの好きなように理由を作って、納得して、勝手に涙流したり怒ったりしてる。当事者が何も言ってないってのに」








「ええ……」








 小坂は胸の奥にざらついた不快感を覚えた。







 自分たち警察ですら、客観的な証拠を集めることしかできず、彼の沈黙の奥にあるものには触れられずにいる。









 それなのに、外野の人間たちは自分が知り得たわずかな断片だけを繋ぎ合わせ、「これが真実だ」と断定して語り合っている。










 被害者の家族の涙も、同僚の証言も、世間の正義感も、匿名のアカウントの同情も。











 すべては事件の外側で生み出された「都合のいい物語」に過ぎない。












「警察の仕事は『事実』を固めて検察に送ることだ。動機が本人の口から語られなくとも、自供と証拠が揃っていれば裁判は進む。……お前がそこまで悩む必要はないんだぞ」









「分かってます。分かってるんですが……」








 小坂は自分の手帳を開いた。





 現場の目撃証言にあった、小さな記述。









『現場直前のコンビニで、二人で同じ缶ビールを買い、並んで開けていた』









 強盗殺人を企てる人間が、殺害直前に被害者と同じ酒を買って並んで飲むだろうか。








 追いつめられて殺害された人間が、直前に加害者と穏やかに酒を酌み交わすだろうか。













辻褄が合わない。だが、それを証明する手立てはない。