深夜の署内。取調室を出た担当刑事の小坂は、自販機で買ったぬるい缶コーヒーを口に含んだ。
目の前のデスクには、ぶ厚い捜査資料が積み上がっている。
現場の写真、薬物の鑑定結果、通報記録、被害者の口座の動き、周囲への聞き取り調査の報告書。
事件に関する客観的な事実は、すでにすべて揃っていた。
被害者は過剰摂取による薬物死。
通報者は現場にいた同い年の男。
駆けつけた捜査員に「僕がやった」とあっさり自供。
事実は何一つ変わらない。だが、肝心の「なぜ」だけが、ぽっかりと空白のまま残されていた。
「小坂、まだ残ってたのか」
通りかかった先輩刑事が、声をかけてくる。
「……ええ。あいつ、今日も何も話しませんでした。『僕がやりました』それだけです」
「弁護人相手にもか? 普通なら『刑を軽くするために理由を話しましょう』って説得されるだろ」
「弁護人にも一切何も言わないそうです。初めは罪を軽くするための黙秘かと思ってたんですが……どうやら違う。あいつは減刑なんて端から望んでない顔をしてるんです」
小坂は腕を組み、深いため息をついた。
「何かを隠しているんじゃないか、あるいは……誰かを庇っているんじゃないか。最初はそう疑って、被害者の交友関係や過去の裏の繋がりまで全部洗いました。ですが、そんな証拠はどこからも出てこない。あいつらがただの友人同士で、あの日あの公園に二人でいたという事実しか残らないんです」



