今日の学会も滞りなく終了した。
「ああ、お疲れ様です。花島先生」
「いえいえ、こちらことお疲れ様です」
個人病院で働いているとはいえど、どうしても一年に一度は学会に出ないといろいろと大変なのだ。新しい知見もそうだけれど、しがらみとか、人付き合いとかしておかないと、なにかトラブルがあったときに人づてを頼って対処できなかったりするから。
本来ならば男社会である医療業界も、最近はコンプライアンスとか訴訟とかそもそもの物価高とかコロナ禍明けとかで、飲み会には若干消極的だ。なによりも学会の時期と学生の夏休みの時期がモロかぶりしているせいで、宿代が高いものだから、学会が終わったらそそくさと新幹線に乗って地元に帰ることが多いんだ。
「新幹線まで時間がありますが、どうされますか?」
「私、夕方まで取ってるチケットありませんので、今日はデパ地下でも見てこようかなあと思っていますよ」
「おや、そうですか。気を付けて」
「ありがとうございます」
そう行って先生と別れると、私はスキップをしそうになるのを堪えてデパ地下へと向かっていった。
……学会のために、数ヶ月前からホテルも新幹線も確保している。値段が上がることも織り込み済みだ。元から高いホテルだと、逆に値段があまり変わらないから、この日のためにグレードの高いホテルを選んでいる。
大阪。どこに行ってもおいしいご飯がある。
飲み屋に入ればどこでもおいしく、最高級店は数が限られているものの、日常ご飯のクオリティーが高いのがいいのだ。
そりゃ飲み会で高い店には行く。でもそこで人の猥談や患者の悪口を聞かされ続けていたら、ひとりでお値段そこそこでおいしく楽しく食べていたほうがメンタルにも財布にも優しいしメンタルポイントも回復されるというもの。
人の猥談よりも目の前の食事。
それを楽しむためにデパ地下に行くのだ。
****
デパ地下というと、デリ風弁当とかお土産とかが頭に浮かぶけれど、大阪梅田のデパ地下の端っこは、かなりの天国が存在している。
立ち食いのためのスペースがどーんと存在しているのだ。
安いイタリアンワイン付きや安くて旨い丼やラーメンもいいけれど、大阪に来たらまあこれだ。
「すみません、いか焼きひとつお願いします!」
「はいよっ!」
気風のいい店員さんが、いか焼きを発泡スチロールの入れ物に入れて出してくれた。
いか焼きというと、縁日で売られているいかの丸焼きが真っ先に頭に浮かぶけれど、大阪だと違う。
もっちりとした生地の中に刻み込まれたいかとソースのハーモニー。この生地はお好み焼きとも違うし、クレープとも違うもっちり具合で、そこにくるまれたいかは噛みしめれば噛みしめるほどに旨味が出て、甘めのソースとの相性が抜群なんだ。
関西イコール粉もん文化と言われているものの、昨今はいろーんなおいしい食べ物のおかげで忘れられがちな言葉を、このいか焼きが思い出させてくれる。そんな味なんだ。
私がハフハフといか焼きを食べている中、近くの人がたこ焼きを食べているのが目に入る。
関西だとたこ焼き器を持っているのが一般的らしいけれど、そんなにたこ焼き器って一般的なものなのかなと思っていたら、隣の人はたこ焼きを出汁で食べているのを見た。別名卵焼きとか明石焼きとか呼ばれるそれは、本当だったら大阪の名物ではなくって、兵庫県の明石の名物らしいけれど。
そういえば大阪に来たらたこ焼きはさんざん食べているのに、明石焼きは食べてないなあ。私はそう思いながら、お腹はまだもうちょっと入るなと確認し、明石焼きも買いに行くことにした。
「すみません、明石焼きひとつお願いします」
「はいっ」
出てきたのは、真ん丸のたこ焼きとお椀のセットだった。お椀にはたっぷりと出汁が入っている。これを浸けながら食べるのかな。そう思いながら、たこ焼きをひょいと出汁にくぐらせてから箸で摘まむと生地がもろっと柔らかいことに気付く。
もしかしなくっても、たこ焼きよりも生地が柔らかい? 落とさないように気を付けながら口の中に放り込む。
んーんーんー……どうして明石焼きが卵焼きって呼ばれているのかよくわかった。この明石焼きの生地、出汁を吸った食感といい味付けといいこれはだし巻き卵だわ。不思議、見た目はほとんど普通のたこ焼きなのに、出汁を吸ったら途端に違うものになるんだ。
そしてたこがね。このだし巻き卵みたいな生地と混ざっていい出汁になっている。
さんざん明石焼きをはふはふしていたら、今度こそお腹がいっぱいになった。粉もんはお腹に溜まるんだ。
ひとまず予約していたホテルにチェックインしてから、夜はどこで食べるのか考えようと、うきうきしながら考えることにした。
「ああ、お疲れ様です。花島先生」
「いえいえ、こちらことお疲れ様です」
個人病院で働いているとはいえど、どうしても一年に一度は学会に出ないといろいろと大変なのだ。新しい知見もそうだけれど、しがらみとか、人付き合いとかしておかないと、なにかトラブルがあったときに人づてを頼って対処できなかったりするから。
本来ならば男社会である医療業界も、最近はコンプライアンスとか訴訟とかそもそもの物価高とかコロナ禍明けとかで、飲み会には若干消極的だ。なによりも学会の時期と学生の夏休みの時期がモロかぶりしているせいで、宿代が高いものだから、学会が終わったらそそくさと新幹線に乗って地元に帰ることが多いんだ。
「新幹線まで時間がありますが、どうされますか?」
「私、夕方まで取ってるチケットありませんので、今日はデパ地下でも見てこようかなあと思っていますよ」
「おや、そうですか。気を付けて」
「ありがとうございます」
そう行って先生と別れると、私はスキップをしそうになるのを堪えてデパ地下へと向かっていった。
……学会のために、数ヶ月前からホテルも新幹線も確保している。値段が上がることも織り込み済みだ。元から高いホテルだと、逆に値段があまり変わらないから、この日のためにグレードの高いホテルを選んでいる。
大阪。どこに行ってもおいしいご飯がある。
飲み屋に入ればどこでもおいしく、最高級店は数が限られているものの、日常ご飯のクオリティーが高いのがいいのだ。
そりゃ飲み会で高い店には行く。でもそこで人の猥談や患者の悪口を聞かされ続けていたら、ひとりでお値段そこそこでおいしく楽しく食べていたほうがメンタルにも財布にも優しいしメンタルポイントも回復されるというもの。
人の猥談よりも目の前の食事。
それを楽しむためにデパ地下に行くのだ。
****
デパ地下というと、デリ風弁当とかお土産とかが頭に浮かぶけれど、大阪梅田のデパ地下の端っこは、かなりの天国が存在している。
立ち食いのためのスペースがどーんと存在しているのだ。
安いイタリアンワイン付きや安くて旨い丼やラーメンもいいけれど、大阪に来たらまあこれだ。
「すみません、いか焼きひとつお願いします!」
「はいよっ!」
気風のいい店員さんが、いか焼きを発泡スチロールの入れ物に入れて出してくれた。
いか焼きというと、縁日で売られているいかの丸焼きが真っ先に頭に浮かぶけれど、大阪だと違う。
もっちりとした生地の中に刻み込まれたいかとソースのハーモニー。この生地はお好み焼きとも違うし、クレープとも違うもっちり具合で、そこにくるまれたいかは噛みしめれば噛みしめるほどに旨味が出て、甘めのソースとの相性が抜群なんだ。
関西イコール粉もん文化と言われているものの、昨今はいろーんなおいしい食べ物のおかげで忘れられがちな言葉を、このいか焼きが思い出させてくれる。そんな味なんだ。
私がハフハフといか焼きを食べている中、近くの人がたこ焼きを食べているのが目に入る。
関西だとたこ焼き器を持っているのが一般的らしいけれど、そんなにたこ焼き器って一般的なものなのかなと思っていたら、隣の人はたこ焼きを出汁で食べているのを見た。別名卵焼きとか明石焼きとか呼ばれるそれは、本当だったら大阪の名物ではなくって、兵庫県の明石の名物らしいけれど。
そういえば大阪に来たらたこ焼きはさんざん食べているのに、明石焼きは食べてないなあ。私はそう思いながら、お腹はまだもうちょっと入るなと確認し、明石焼きも買いに行くことにした。
「すみません、明石焼きひとつお願いします」
「はいっ」
出てきたのは、真ん丸のたこ焼きとお椀のセットだった。お椀にはたっぷりと出汁が入っている。これを浸けながら食べるのかな。そう思いながら、たこ焼きをひょいと出汁にくぐらせてから箸で摘まむと生地がもろっと柔らかいことに気付く。
もしかしなくっても、たこ焼きよりも生地が柔らかい? 落とさないように気を付けながら口の中に放り込む。
んーんーんー……どうして明石焼きが卵焼きって呼ばれているのかよくわかった。この明石焼きの生地、出汁を吸った食感といい味付けといいこれはだし巻き卵だわ。不思議、見た目はほとんど普通のたこ焼きなのに、出汁を吸ったら途端に違うものになるんだ。
そしてたこがね。このだし巻き卵みたいな生地と混ざっていい出汁になっている。
さんざん明石焼きをはふはふしていたら、今度こそお腹がいっぱいになった。粉もんはお腹に溜まるんだ。
ひとまず予約していたホテルにチェックインしてから、夜はどこで食べるのか考えようと、うきうきしながら考えることにした。



