ユキイロノセカイ

「ね、今度はあたしに付き合って」
(ゆき)ちゃんも、なにか用事?」
「ちょっと時間かかるし……買い出しの前にすませたほうがいいと思って」

 モゴモゴながら切り出して、ふたつ返事で了承を得た数時間後。

「わぁ……!」

 どうやら、(せつ)を喜ばせることになったようだ。

「はじめて会ったときの幸ちゃんだ! なつかしいなぁ……」
「地味じゃない?」
「ぜーんぜんっ! こっちの幸ちゃんもかわいいよ~!」
「ちょ、声大きい雪……店員さんこっち見てるから……!」

 やってきたのは美容院。
 担任との約束もあったし、思い切って黒髪に染め直してみたわけだ。
 けれども、やった先からかわいいかわいいと連呼されては、たまったもんじゃない。
 ほほ笑ましげな店員さんから逃げるように、雪の腕を引っつかんで店を後にする。

「ねぇねぇ、どうして染め直そうと思ったの?」
「目ぇ輝かすなって……いろいろ事情があるんだよ、高3は」
「ふむふむ、事情ねぇ……」
「……なによ」
「なーんでも? あ、ひとつだけ。幸ちゃんがあまりに愛しいので、ぎゅっとしてもいいですか?」
「よくないです、人前です!」
「あははっ、照れ屋さんだなぁ」
「あんたは恥じらいをどこに置いてきたの! もう幽霊じゃないんだよ!?」

 ぎゃあぎゃあ喚くあたしの腕を捕まえ、雪はにっこり。

「オトナの余裕、引き出してみた」
「な……!」
「甘やかしたいんだよ。これ以上にないってくらいにね」

 甘え上手で、甘やかし上手。

「ね、甘えてごらん?」

 これが、不意討ちってやつですか?

「うぅぅ~~~っ!」

 うまいこと丸め込まれて、抵抗不可能。
 白状しなきゃ、やられちゃう。

「……雪みたいにきれいな黒髪じゃないけど、これが元のあたしなわけだし……」
「うん」
「……自分のやりたいこと、素直にやりたいなぁって思ってて」
「知ってる」
「……そのためには、今すっごい苦しいわけなんですけども」
「だから、ぼくがいるんでしょ?」

 やさしく抱き寄せられながら、あぁ、敵わないなぁと観念する。

「たまには大人に、甘えてみなさい」

 ポンポンと背中をさすられたなら、もう限界。

「雪、あたしね――」