ユキイロノセカイ

 絶対に来てやるものか。

「ユキさん、こんにちは~」

 ふにゃふにゃした笑顔を前に、それはムダな意地にすぎなかった。
 そういや家路だったわとも気づいて、早数日。
 今日もバイト帰りに、セツという小動物の相手をしてやっている。

「真冬ですねぇ」
「ソダネ」

 空は茜。場所は相も変わらず噴水広場。
 この極寒で、なにが悲しくて氷の巨大オブジェをバックにならび座るのか。
 理由は簡単。
 あたしがお礼を断ったから。
 傘返しただけで大げさだし。
 けどセツは違った。
 それっきりになることを、妙に拒んだ。

 さすがにナンパされたとか、うぬぼれちゃいない。
 セツだってそんな性分じゃないだろう。
 現に、連絡先なんて訊かれやしない。
 あたしたちをつなぐのは、いついつの何時頃に、天気が悪くなかったら来るかもね、みたいに、不確かな口約束だけだ。

 それでも、あたしがここに来るとセツは必ずいて、「いらっしゃい」って笑いかけてくる。
 どうしてそこまでして、あたしと会いたがるわけ?
 おしゃべりのかたわら真意を探ってみたものの、なにもわかりゃしない。
 なにを考えているのか。
 いやむしろ、なにも考えてなかったりして。
 ……あり得る。こいつなら。

「寒いですねぇ」
「真冬だからね」
「……ユキさん、ぎゅってしましょうか」
「やろう、あたしの体温強奪する気か」
「そんなつもりは! 冬は、人肌が恋しくなるって言うじゃないですかぁ……」
「つまりは自分がぬくぬくしたいだけだろ、慢性冷え症患者」

 セツは、極度の冷え症である。
 マフラーや手袋、ダッフルコートは必需品。
 だからかもしれない、スキンシップを求める言動がやたら多い。
 やつが小動物たるゆえんだ。
 中坊のたわむれと、受け流してきたが……

「もう歳かなぁ」
「ジジくさいこと言うな」
「あはは。人間って、20歳すぎると老化する一方ですからねぇ」
「そんなのんきな……ハタチ?」
「ぼくの脳細胞なんか、あとは死滅するだけです」
「ちょ、セツ……」
「若いころに、もっと頭使ってればなぁ~」
「ちょっと待て、セツ!」
「はいっ! なんですか、ユキさん?」
「あんたさ、何歳?」
「ぼくですか? 今年は、う――――ん……」
「そこ即答! 自分のことでしょ!?」
「でもぼく、忘れっぽいし…………あ、大学は、卒業できたような気がします」

 大学、だと。
 小でも中でも高でもなく大。
 マジで。じゃあ。

「大丈夫、ぼくと違ってまだ2年は余裕があります。いまのうちに元気な脳細胞をたくさん作ってくださいね、ユキさん!」

 まさか、この史上最強ゆるふわ小動物が、歳上だって……?

「ないわー……」
「え、ユキさん?」
「ユキ。さん付けやめて。あと敬語も」
「そんなっ! おこがまし」
「くない! 歳上ならそれなりに威張れや! まぎらわしい!」

 童顔だし、いい具合に背も高くないし。
 大人って、理不尽に小言垂れるやつらだと思ってたわけ。
 うちの担任みたいにさ。

 ……こんなの、反則以外のなんだってんだ。