ユキイロノセカイ


  *  *  *


 ぼくがまだ高校生の、寒い寒い12月のことだったっけ。
 ひさしぶりにお父さんがいっしょに帰ろうと誘ってくれたので、喜んで家路についたぼく。
 数十分後にはなぜか、来たことのないオシャレな喫茶店にいて……

 なぜかスラリと背の高い、きれいな女の人(もしかしたら、お父さんより高いかもしれない)と、よく似た小学生くらいの男の子が、目の前にいた。

「ほら、よろしくお願いしますは?」

 テーブルに頬杖をつき、むすぅっ、と無言でそっぽを向く男の子。
 その横っ面を、ばちこーん! と平手打ちが襲った……って、え!?

「ってぇなぁ!」
「お父さんとお兄ちゃんになに、その可愛くない態度は」
「そっちが勝手に決めたんだろ!」
「ぐずるのもいい加減にしな、(かえで)。アンタの母親は私。子供は親の言うことを聞くもんでしょうが」
「ツバキちゃん……その辺りにしてあげようか」
「でもねアキさん、子供は、甘やかしたらろくなことしでかさないのよ」
「突然家族だって言われたら、だれだって戸惑うさ。これから少しずつ打ち解けていけばいい。ね?」

 目の前で展開される会話について行けてないのは、きっとぼくだけ。

「雪、前に話しただろう? お父さん、再婚するんだって」
「うん……じゃあ」
「お母さんになってくれる、椿さんだよ。そっちの子は、楓くん。雪の弟だ」
「おとうとっ!」

 一緒に遊んだり、勉強を教えてあげたり。
 学校から帰っても、ひとりで宿題や読書をしていたぼくが、ひそかに憧れていたこと。
 それが、現実になるという。
 弟。いまのぼくにとって、最高の魔法の言葉。

「ぼく、雪っていうんだ。よろしくね、楓くん!」
「……なに、ヘラヘラしてんの」
「うん?」
「…………ムカつく」

 弟ができるって、浮足立ったのもつかの間。
 会って早々、厳しい言葉を浴びせられることになるなんて。
 これが結構ヘコんだんだよ……

 ぼくのどこが悪かったのか、気になって仕方なくて。
 なかなか相手にしてくれなかった楓くんは、しつこいくらい付きまとうぼくに、白旗を挙げる。

「あんたの笑顔、なんかヘン」

 ぼくは、人間らしくないんだって。
 たしかに楓くんを見てると、怒ったり悲しんだり、自分の本音をつつみ隠さず話してた。
 笑うだけなら、人形にだってできる。
 喜怒哀楽があるのは、人間だけだ……って。

 そんなとある休日。
 楓くんがフラッと出かけたまま、帰ってこなかった。