ユキイロノセカイ

 おまじないのように、言い聞かせられた言葉がある。

「やさしさは人を救う。だから(せつ)、常に優しくありなさい」

 お母さんは病気がちで、よくお父さんにつらく当たっていた。
 投げた物が当たって、おでこから血が出たりもしてたけど、お父さんはやさしく笑っていた。
 そうすれば、お母さんもつられて笑うことがあったから。

(ぼくだったら、いたくてないちゃうのに。すごいなぁ)

 幼心に、お父さんを尊敬した。

 やがて思春期になると、言いつけが痛いくらい身に沁みた。

 気に入らないから殴っただの。
 好きな人を盗ったから仲間外れにするだの。

 個性よりも集団が先行する、イヤな風潮。
 陽だまりみたいなお父さんのそばとは、まるで別世界だった。

(どうしてみんなは、誰かを傷つけるの? 自分がされたら、イヤでしょ?)

 訴えるぼくへ、お父さんは静かに答える。

「だからおまえは、笑顔でいなさい。人を悪魔にする空気もきれいにするくらい、やさしくありなさい」

 その言葉はストンと胸に落ちて。
 中学に上がった年の冬の日、ぼくは怒ることも泣くことも、やめた。

 そのうちに、お母さんが悪い魔物に連れて行かれちゃって。
 悲しかったけど、お母さんを心配させるだろう? ってお父さんが言うから、泣かなかった。
 一生懸命笑ったんだよ。
 そんなぼくたちを、お葬式で、親戚のおじさんやおばさんたちは冷たい目で見てた。

 ……やさしく笑っていればいいってことに、いけない疑問を抱いた瞬間。