ユキイロノセカイ


  *  *  *


「好きだよ、雪……大好き」

 きれいな瞳、まっすぐな心に、どれだけぼくが駆り立てられたと思う?

 手がふるえて、血が全身を駆けめぐって。
 気づいたときには、自分のことを忘れてと言う唇をふさいでいたっけ。
 皮肉だよね。
きみのためを想ってついた嘘だったのに、きみを傷つけていたと、無理に笑わせて気づくなんて。

「幸ちゃん……幸ちゃん……っ!」

 ……ごめんね、ごめんなさい。
 忘れてないよ。
 忘れられるはず、ないじゃないか。
 きみはぼくの、すべてなんだから。

 心を通わせるほど、きみに近づく感覚。
 きみの体温だけじゃなく、寒さも感じるようになったんだ。
 同時にきみへふれるたび走る頭痛が、警鐘を鳴らした。

(もう……時間がないっ……!)

 寒空に白雪が舞い上がる。
 腕の中のきみは、燃えるように熱い。
 長引くその不調は、風邪なんかじゃない。
 きみの生気を、ぼくが吸い取ってるせいなんだ。
 このままじゃ、ぼくはきみを……殺してしまう。

「行くんだ、幸ちゃん!」

 ただ守りたくて張り上げた声は、きみを泣かせてしまった。

 ぼくのこと、好きになってくれてありがとう――

 たった一言伝えればよかったのに、罪悪感が邪魔をした。

「幸ちゃん……すき……きみが……大好きだ」

 いくら切望しようと、〝どちらも〟は選べない。
 0は1になり得ないんだ。
 ぼくが生きるか、きみが生きるか……
 未来は、ひとつしかない。

(だからぼくは……人知れず、消えよう)

 すべて納得の上で、深呼吸をした。
 なのに……雪の降らない街で、きみが駆けて行った道をあの人が見つめていて。

 ――ゾクリと、肌が粟立った。

(守らなきゃ)

 その想いだけが、ぼくの意識をつなぐ糸で。
 人でも幽霊でもなくなったからだは、不安定すぎた。
 鈍器で殴られたような頭を抱え、悲鳴を上げる足を引きずる。

「かえくん!」
「…………え? 雪、兄さん……?」

 たどり着いた先には、あの子がいてくれた。
 あの子もぼくのことが見えたみたいだ。
 ぼくもだいぶ〝こちら側〟に近づいてきたんだろう。
 視線を交わせたことは、残り時間があとわずかであることの証明であったけれど、この場では単純に安堵へとつながって。

「おねがいかえくん、力を貸して! 幸ちゃんを助けたいんだ!」

 困惑する弟に頭を下げながら、神様へ懇願する。

 どうか、幸ちゃんを連れて行かないでください。
 彼女の運命は、ぼくが引き受けます――と。