ユキイロノセカイ

 今日は特別、心がおどった。
 それもそのはず。

「すごい……(せつ)に、こんな特技があったなんて……!」
「えへへ~」

 黒目がちな瞳を珍しく輝かせたきみに、ピタリと肩をくっつけられたんだ。
 喜ばないはずがないでしょう!

「グッジョブ、風よけ」

 たとえそれが、思わぬ産物だったとしても!

「はぅ……ぬくい……」

 寒いの、苦手だもんね。
 首を縮めて丸くなって。
 ぼくをウサギさんだと言うけれど、それならきみは、猫ちゃんだね。

 真っ白に染まった噴水広場。
 その中でも、ちいさなちいさな傘の下の世界は、夜空に浮かぶ一等星のように輝いていた。

「あたしとしたことが。なんで早く気づかなかったんだろ」
「ね、言ったでしょ? ぼく男の子だよ~って」

 きみよりおっきいし、力だってあるんだよ。
 そう笑えば、ひと肩の温もりが離れた。
 視線を伏せてもダメ、だよ?
 ほんのり色づいたその頬は、どう見てもかじかんだせいじゃない。
 そうでしょう?

「ユーキちゃんっ」

 ポスッ。

 今度はぼくの番。
 呆れ気味に、それでいて気が抜けたように、(ゆき)ちゃんはくっついたぼくの頭をなで回す。

「よしよし、お手」
「ぼく、ワンちゃんじゃないです」
「おっとそうだ、ウサギだったな」
「うん、もうなんでもいいかな!」

 近くにいられるなら、それで。

(少しくらい……いいよね?)

 ぎゅっと腕を絡めたら「ホントに寂しがりやだな」って、また頭をわしわしされた。
 実を言うとね、この時間が、好き。
 気持ちいいなぁ……
 人の体温って、こんなにあったかいんだ。

「雪、適度に堪能したら離れてねー。あんたにあげっぱなしで平気なほど、基礎体温高くないのー」
「むむ……はぁい」
「こらそこ即答」

 いつまでだって、ふれていられるのに。
 だけどね、幸ちゃんを困らせるのもいやだから、渋々離れることにするよ。

「はー、寒いなぁ」

 形だけ寒がって、きみと同じ人間を演じる。
 きみはなにか言いたげ。
 出しかけた手を引っ込め、朱に染まる頬をマフラーに埋める。
 それがあんまりにもかわいいから、なにも見てないフリをした。

「……学校、行く」
「うん。行ってらっしゃい」
「雪……寒い」
「……うん? そだね?」
「ウイルス、ナメんなよ」

 淡々と言い放って、駆けて行く幸ちゃん。
 脈絡のない言葉たちがひとつにつながった瞬間、クスッと笑いが漏れた。
〝風邪を引かないように〟って、心配してくれたのかな。
 おめでたいぼくにはね、〝会えないと寂しい〟って、変換されちゃうんだよ。

「手遅れだなぁ……」

 今さらなことをつぶやいて、粉雪が舞う空を見上げた日。
 このときはまだ、幸せだったな。