ユキイロノセカイ

 予想外のことで、からだは固まっちゃって。
 あたしは唇を覆われながら、たくましい腕に抱き込まれていくだけ。

(せつ)兄さんは、どんな風にキスしてた? どんな強さでユキさんを抱きしめてた?」
「か、えで……なにを……」
「わかんないからさ、教えて? 俺、言われた通りにするよ」
「……雪に、なるつもり……?」
「超えられっこないってわかってる。けど、きみの泣き顔を見るよりずっといい」

 抱く力は、いつもより弱い。
 一方で首筋に擦り寄る仕草が、あたしの心臓を鷲づかむ。
 ぎゅっとしてもいいですかって、甘えたようにおねだりしてきたあいつが、頭をよぎるなんて。

「力、抜いて」

 言われるがまま脱力したからだを、そっとベッドに寝かせられる。
 上体を乗り出し、囲うように両肘をシーツに沈ませた(かえで)は、あたしの髪をさらっと横に流す。

「目を閉じて。大丈夫、やさしくする……」

 催眠にかかったみたい。
 なんの抵抗もなく、光を遮断する。
 ひたいへ落とされたキスに、手足が強張った。

「俺、がんばるから」

 頬へ落とされたキスに、胸がキュッと締めつけられる。

「雪にされてるって、思えばいい」

 それから、言葉は必要なかった。

 ついばむようにくり返されるキス。
 思考が奪われる。

 髪を梳く右手。
 指を絡めた左手。
 密着した上半身。

 暗闇の中、時折息継ぎをしてはすぐに落とされる熱を受け入れる。
 空っぽなからだは、与えられる温もりを嬉々として享受していたけれど。

「……んっ……うぅっ……」

 流れ出した涙が、あたしの心が、抵抗するの。
 やっとの思いで胸を押す。
 熱をはらんでいるのに純粋な瞳が、あたしを見下ろしていた。

「バカやろう……」
「ユキさ……」
「あたしの……大バカやろうっ……!」

 突然の剣幕に、楓が硬直する。
 焦げ茶色の瞳には、戸惑いの色が滲んでいて……でも、尻すぼんでる場合じゃない。
 口に出すほど、ハッキリすることがあるの。

「楓だって……大切でしょうが」
「え……」
「すきなのに! お兄ちゃんみたいだって、頼りにしてるクセに、あたしは……っ!」

〝きみが笑ってくれれば、それでいい〟

 そんな自己犠牲を強いる、大バカ者だ。