* * *
目を覚ますと、白い壁が広がった。
悲痛な嗚咽がひびき渡った。
病衣のあわせから包帯をのぞかせた弟が、兄さん、兄さん……と何度もくり返す。
(ああ、ちゃんと助かったんだね)
薄暗い部屋の隅で、ホッと胸をなで下ろす。
すぐに罪悪感が胸を支配した。
(ごめんね、かえくん。そこにぼくはいないよ。こんなに愛しいきみを置き去りにするなんて、ひどいお兄ちゃんだね)
いくら謝っても、ベッドに横たわったもうひとりのぼくは、答えない。
よっぽど気がかりだったんだろう。
幽霊と成り果てたぼくは、弟からもらった大切な傘を手にしていた。
だけど、いざ悲しむ後ろ姿を目の当たりにすると、形容し難い痛みばかりが胸を支配する。
居たたまれず、外へ飛び出すのに時間はかからなかった。
向かった先は噴水のきれいな広場。
病室からよく見えていた場所だ。
サラサラ流れる清水が軋む心を洗い流してくれるようで、自然と腰を落ち着ける。
空腹も気温も睡魔も感じることなく、いたずらにさまよう毎日。
そのうちに、どうしてぼくはここにいるんだろう、と疑問を抱き、やがて思い出す。
そうだ、もう一度あの子と笑い合うためだ、と。



