ユキイロノセカイ


  *  *  *


 淡い青色にひろがる低い空のもと、わだちを探しながら純白の道をすり足で行く。
 コートやマフラーで防備しても、呼気を凍らせる冷気が肌を突き刺す。
 ここまで来ると、もはや痛い。
 電光掲示板の前でひとの大群がため息をつく駅を通りすぎ、ビルが林立する中央街へとやってきた。

「……やっぱり」

 あたしが跳ねられたはずの横断歩道。
 そこは通行止めになっていなければ、脇の電柱に花束が手向(たむ)けられた様子もない。
 それはなんの変哲(へんてつ)もない、『12月1日』だった。
 首をめぐらせても、やっぱり一面銀世界。
 闇雲に歩いたって意味なんてない、と高をくくっていたけど。

「……ウソ」

 いた。あの少年が。
 さすがに都合が良すぎでしょ、と首をふったものの、もう一度まばたきをして、愕然とする。

 雪にまみれた歩道の先。
 ちょうど(ひら)けた広場の中央に、氷の巨大オブジェと化した噴水が鎮座している。
 そのレンガ造りのへりに腰かけるのは、ひとりの少年。
 猫のように背中を丸め、マフラーに鼻までうずめていれば、わかりにくいったらありゃしない。
 だけどおあいにくさま。
 黒いクセッ毛とチョコレート色の瞳には、見覚えがありましてね。

「ねぇ、ちょっといい?」
「はい?」

 深く考える必要はない。ひと声かけてみる。
 返ってきたのは、「えっと……?」とかしげられた、キョトン顔だ。

「これ、あんたのでしょ」
「え、あっ、ほんとだ! わざわざすみません、ありがとうございます!」

 あたしから傘を受け取るなり、慌てて立ち上がる。
 そうして直角にお辞儀したそいつを、まじまじと観察。

 オレンジのマフラー、ミルクティー色のダッフルコート。
 バニラホワイトのスリムジーンズに、締めはココアカラーのシューズときた。
 甘い。甘すぎるカラーリングだ。
 でも愛嬌のある顔立ちで笑いかけられたら、なぜか許せてしまうという不思議。

 目線が近いから?
 平均身長のあたしが、ちょっと上目で見るくらいだ。
 成長期に片足突っ込んだ男子中学生が、このくらいの背丈だろう。

「お気に入りの傘なんです。失くして困ってたところで、ほんと助かりました」
「……失くしてた? あたし、あんたから貸してもらったんだけど」
「あれ、ぼくたち、会ったことありましたっけ……?」
「は?」

 ちょっと待ってよ、あたしのセリフだっつの。
 あの夜、見ず知らずのあんたが傘をさし出してきて。
 それから、目が覚めたらこんなことになってて。

「どうもぼく、忘れっぽくて。ごめんなさい……」

 シュンと気落ちするすがたは、ウソをついているようには見えない。
 釈然としないけど、仕方ないか。

「いや、いい。傘貸してもらって助かったの、事実だから」
「ほんとですか? よかったぁ!」
「っ……」

 いきなりふにゃっと笑うな。小動物か。
 急に居たたまれなくなって、ふいと顔を逸らす。

「とにかく、そういうことだから」

 ヒラリと手をふって、ハイ終了。
 あたしの中では完結していたのに、相手は違ったらしい。

「あ、待ってください!」

 なんだ、用はすんだのだが。
 無言の訴えを知ってか知らずか、そいつはおずおずと口を開いた。