ユキイロノセカイ

(かえで)はどうしたの」

 紗倉(さくら)は、意味深な笑みを浮かべるだけ。
 あえて生死を明らかにせず、こちらの焦りを煽るつもりなのか。

「あら意外。もっと感情的になると思ったのだけれど」

 無言で睨みつけてやれば、なぜか満足気なうなずきが、ひとつ。

「やっぱり(ゆき)さんは賢いのね。よかったわ。もう一度話し合えばきちんとわかってもらえると思って、ここに来てもらったのよ」

 話し合えば?
 笑わせんな。脅迫の間違いだろ。

「……あたしの部屋に届いたクリスマスカード、あんたの仕業だね」
「ふふ、正解よ。よくわかったわね」
「引っかかってたんだよ。こんな悪趣味な待ち合わせ、あいつがするわけない。(せつ)の名前を語った理由は」
「何が何でも来てくれると思ったからよ。楓までついてきたのは、ちょっとした誤算だったけれど」

 やっぱりな。
 こいつなら好きなときに楓を殺せた。
 そうしなかったのは、本当の狙いが、あたしだったからだ。

「雪が記憶障害って話も、出まかせだな」
「予防線のつもりだったのに……彼が教えたのね。いけない人」

 物憂げな瞳は彼を見ているようで、ちがう。
 見えていないんだ。現実が。

「……雪は、いないよ」
「いいえ。彼は生きています」
「いないんだよ。5年前、あんたがその手で……殺したんだ」
「ちがうわ、彼は私と永遠を誓い合ったの! ほら、こうして息をしているでしょう? 私は神になったの。彼も同じよ!」
「あり得ない。人間は神にはなれない」
「それをあなたが言うの? 彼がふれたその唇で?」

 ビクッと肩を跳ねさせたあたしを、紗倉は見逃さない。

「激しい口づけを、情熱的な抱擁を一身に受けて、あれほど求められていたあなたが、彼を否定すると言うの?」
「……見て、たの」
「全身が沸騰するような思いだったわ! ひとりになったあなたを追いかけて、八つ裂きにしてしまいたいくらいに! ……けれど、思い留まったのよ。楓にお仕置きをしたときのように、叱られるのは嫌だもの……」

 叱られるのが怖くて、どうして人間やってくんだよ。
 説教を垂れかけて気づく。
 楓を殺めようとした時点で、この人は人間としての道理から外れている。
 目前にしているのは、そういう相手なんだと。
 嫌な寒気が、からだの奥からせり上がった。

「男を取っ替え引っ替えしてたあんたが、なんで雪にだけ固執するの」
「彼だから、よ。男なんて所詮、欲望にまみれたハイエナ……それ無くしては愛ではないと、恥じらいもなくからだを求めてくる。だけど、彼だけは違った」

 紗倉が男を嫌っているという楓の言葉は、正しかったんだ。
 その美貌ゆえ、媚びへつらう男にうんざりしていたある日、雪と出会った。

「運命だと思ったわ。今まで擦り寄ってきた男とは正反対で、純粋無垢。壊れ物を扱うように、とてもやさしくして頂いたの……」

 あいつの〝当たり前〟を、沙倉の歪んだ心は、愛情にすり替えてしまった。
 それが悲劇のはじまり。