ユキイロノセカイ

 血のように紅い夕陽が、宵に飲み込まれてゆく。

 ゆらゆら。
 不気味に影をのばしたとある建物の前に、あたしたちはたたずんでいた。
 行くなと異様に(かえで)が引きとめた理由。
 それを理解するのに、時間はついやさなかった。

「ここ……弥生(やよい)さんたちが言ってたビル」

 心霊スポットと名高いだけあって、人影は見当たらない。
 十数分歩いただけで街とはこんなに違うのかと、身震いがした。

「屋上、結構高いだろ?」
「うん……10階建てかな。この辺じゃ目立つね」
「もともと、クリスマスの時期は屋上から街のイルミネーションが一望できるって有名だったんだ。事件が起きて廃ビルになった当初は、だれも立ち入らなかったんだけど」
「物好きさんたちが、面白半分で探検し始めました、と」
「帰ってきたひとはみんな同じ反応だったらしい。酷く怯えて、なにも覚えてないってさ」

 それで、屋上までたどり着けたカップルは結ばれる、ね。
 築年数自体相当長いという上に、物騒な事件があったんだ。
 管理者は喜んで取り壊しに応じたというが。

 まじまじとビルを見上げる。
 組まれた足場は錆びつき、そこに存在するだけの鉄の棒。
 外観を覆うブルーシートは脱色し、大きくめくれ上がっている。
 みずぼらしいつぎはぎのすきまからは、風化し、いまにもボロボロと崩れ落ちてしまいそうなコンクリートの壁が顔をのぞかせていた。

 度かさなる幻聴、幻覚に、作業員はひとり残らず逃げ出してしまったという。
 楓の話を疑う余地は、もはやない。
 そんな場所へ、あたしたちはいままさに、もぐり込もうとしているのだ。

「ユキさん、俺の手を、絶対に離さないで」

 幽霊なんて非科学的なもの、信じてない。
 それでも楓の真摯な表情を前に、うなずかずにはいられなかった。
 どうして雪は、こんないわくつきのビルを待ち合わせ場所に指定したのか?
 なにもわからないまま、探索ははじまる。