ユキイロノセカイ

『どうして、こんなにむごいことをッ!』

 思えばそれは、生まれてはじめての激昂だったのかもしれない。
 目前には、浅い息でぐったりと横たわる少年。

 止まれ、止まれ……止まれ止まれ止まれッ!

 いくら切望しようとも、赤黒い液体が指を、手首を、ねっとりと濡らすのみ。

『悪いのはあなた』

 非情な言葉は頭上から降り注ぐ。

 許さない……!

 全身が燃え盛るような憤りを込め、悪魔を睨みつける――



「――っ!」

 爽快な、という単語には到底似つかない目覚め。
 それは氷点下のすきま風のせいでも、布団を跳ねのけたせいでもない。

「悪趣味な夢……」

 首をふって、まとわりつく悪寒を払う。
 ここで、とある光景が目に入った。
 すぐ脇のテーブルに突っ伏し、(かえで)が寝息を立てていたんだ。
 講義がないときは、付きっきりで看病してくれてたしな……物好きというか、尊敬するというか。
 なんとなく正座しちゃった流れで、三つ指をついてお辞儀をひとつ。

「本当に、ありがとうございます」

 お礼を言ったら、なんだか胸がぽかぽか温まってきた。
 さっきまでの悪寒が洗い流されるようだ。
 カーテンのすきまから射し込む光は、茜をおびはじめたころ。

 幸いさほど熱も感じない。
 動けるうちに動こうと立ち上がる。
 とその前に、口やかましく説教を食らうとも限らない。
 手早くスマホのメッセージ画面を開き、送信。

「すぐに帰ってくるね」

 そっと言い残し、コートとマフラーを引っつかんだ。