ユキイロノセカイ

「んんっ……!」
「っは……」

 交わりはほどけ、交錯する視線。
 ゾクリと肌が粟立(あわだ)つ。
 なんてとろけた瞳で、あたしを映し出すの。

「できない……ぼくは、ぼくには、きみを忘れることなんて、絶対にできない……っ!」

 からだを引き寄せるものがある。
 それが腕だと即座に理解できなかったのは、あまりに乱暴だったから。

(ゆき)ちゃん、幸ちゃん……っ!」

 まるでリミッターが外れたように、雪は性急にあたしを掻き抱く。

「……セ、ツ……?」
「うんっ、ぼくは雪だよ。幸ちゃんのことが大好きで大好きでたまらない、雪だ。きみを忘れたことは、一瞬だってない!」
「ウソ……だって、あたしのこと知らないって……!」
「ぼくが間違ってた。こんなやり方できみを守ろうなんて、間違っていたんだ……!」

 ぽろぽろ、ぽろぽろ。

 とめどなくこぼれる涙を拭いもせず、雪はしぼり出すように訴える。
 あたしを守る? それはどういう――

「うぁ……っ!」

 突如雪が膝から崩れ落ちる。
 苦しげなうめき声を上げ、頭を抱えていて、全身の熱が一気に冷えた。

「雪!? 頭っ、頭が痛いの? 誰か……痛っ!」

 支えようとした腕を鷲掴む手のひら。
 ギリギリと締めつける雪は、酷くつらそう……

「おねがい、幸ちゃん……もう、行って……」
「バカなこと言わないで! 雪を置いて行けるわけないでしょ!」
「時間がないんだ! 早くしないと、あのひとに見つかってしまう!」

 怒号とも取れる叫びに身がすくむ。
 雪がなにを言っているのか、なにが起きているのか、なにひとつわからない。

「行くんだ、幸ちゃん!」

 嫌だ、ムリだ、そんなことできない。
 頭ではわかっていた。
 だけど足はひとりでに動く。
 魔法にかかったみたいに、雪へ背を向けてしまう。

「……それでいい」

 やだ……

「ぼくは、いつでもきみを想ってるよ……」

 嫌だよ、雪……っ!

「この先に、きっといる。あの子がいてくれるから……頼って。そしてどうか……」

 穏やかな声音は、あたしがふり向くことを許さない。
 どうして、なんて問う時間も与えてはくれない。

 涙があふれる。頭がグチャグチャになる。
 吹きつける白雪に抗い、広場を、大通りを疾走した。
 やがて駅前で長身の後ろすがたを見つけた瞬間、人目もはばからず叫ぶ。

「楓ッ!!」
「……ユキさん!?」

 ふり返った楓は、当然ながらひどく驚いた様子。
 それでも、人ごみを掻き分けながら駆け寄るあたしの異変に、いち早く気づいてくれた。

「なにがあったんだ」
「ごめんっ、あたしじゃ、どうにもできなくて……お願いっ、力を貸して! 雪を助けて!」
「セツ……セツ、だって?」

 楓がなにを思ったかはわからないけど、ふるえるあたしの手を取る。

「大丈夫だから。そのセツってひとのところに案内してくれる? 事情は行きながら聞く」

 なにもかもわけがわからず、不安で死にそう。
 そんなあたしを、楓は助けてくれるという。
 ごめん、ありがとう、ごめん……
 何度くり返しても、あふれた涙が止まらなかった。