ユキイロノセカイ

 ――その子との出会いは、ある日突然。

 反応から察するに、第一印象はあまり褒められたものではなかったように思う。

 会話ひとつ交わすのにも一苦労。

 意地っ張りだけれど心根のやさしい子なのだとわかると、とたんに愛しさがあふれた。

 もとを正せば赤の他人であっても、この子を放ってはおけない、独りにさせてはいけないと。

 この子を守りたい。その想いだけが、生きる糧だった――



「――あ、れ……」

 いつの間に街に入っていたんだろう。
 店を出てからの記憶が曖昧だ。
 なにか考え事をしていたようだけど、思い出せない。
 ひとしきり首をひねり、出らんもんは出らん、と割りきってまた歩み出す。
 長引く冬風邪に思考が奪われるのも、いまとなっては日常の一部だ。
 幸い軽度であるから、車に跳ねられない程度には気を張ろうと思う。

 バイトや学校に追われる日々。
 やっと自由を確保できたので、今日こそは(せつ)にコートを返そうと道を急ぐ。
 なんだか照れくさいから、お礼はクリスマス仕様のカードを、一足早く紙袋に忍ばせて。
 ライトグレーの寒空だった。
 いつもの噴水広場で、すぐに彼を見つけることができる。

「雪!」

 ふり返り、はにかむ雪。

「さくらさん」
「……え」

 空耳、だよね?
 でも、聞き慣れた声音でつむがれた名前は、ちがっていて。

「雪さん! おひさしぶりです」

 なびく黒のロングストレート。
 ちょうどあたしの後方から駆け出した白いロングコート姿の女性が、雪の手を取った。
 なんで、どういう、こと?

「お元気でしたか?」
「おかげさまで、変わりないですよ」
「本当? 私ずいぶんと気掛かりで、お会いするまで仕事が手につかなかったんですよ」
「それは気苦労をおかけしました」

 いつもとちがう、紺のトレンチコートを着てるからじゃない。
 すらすらと受け答えをする彼はとても大人びていて、あどけないあの笑みとは、到底かさならない。

「……セ、ツ……?」

 あたしの蚊の鳴くようなか細い声に、ふり向くふたり。

「あら? こちらの方はお知り合い?」
「…………いえ。はじめてお会いすると思います」
「――っ!」

 ウソでしょ……いま、なんて言った?

「雪、あたしだよ。(ゆき)だよ……?」
「申し訳ありません。どこかでお会いしましたでしょうか?」

 ……ウソ。

 ウソだウソだウソだ。
 これは悪い夢だ、雪があたしを知らないなんて。
 信じたくない……のに、どうしてウソをついてるように見えないの……?

「ごめ……なさい。なんでも、ないです……失礼しました……っ!」

 消えるような言葉を放ち、脱兎のごとく逃げ出す。
 なんで? どうして? ウソでしょ?
 髪をふり乱しながら元来た道をひた走る。ひとの目なんかどうでもよかった。