ユキイロノセカイ

「……ね。ちゃんと『好き』でしょ?」

 傘を肩に引っかけたまま、ニッと口端を持ち上げるきみは、イタズラが成功したこどもみたい。

「セ、ツ……」
「うー、そんな物欲しそうな顔されると……幸ちゃん、ぼくも男だから、ね?」

 言わんとすることを理解し、ポンッと頭が爆発する。
 当然……なのに、そういう男女のふれあいとか、なぜか雪とは無縁だと思ってた。

 どう反応したら? 抱きしめ返したらいい?
 いやムリ、両手両足もれなく固まって動けません。
 どうしようどうしようどうしよう……
 からだの芯からジンジン痺れる。
 かろうじて麻痺していない指先がギュッとスカートを握ったころ、雪が「もぉ~っ!」と痺れを切らす。

「…………へ」

 なんともまぁ間抜けな声がこぼれた。
 だって意味がわからない。
 突然ダッフルコートを脱いだ雪が、あたしに羽織らせた意味。
 コートもろとも、苦しいくらいにぎゅううっと抱きしめる意味が。

「はぁ……そのかわいさは罪です」
「なっ、意味わかんないしっ、なに脱いでんのよ、慢性冷え症患者!」
「いかにも、冷え症を患っております。幸ちゃん欠乏症も合併しております。ハグしか治療法がありません!」
「意味わかんないってばっ、もうっ!」
「ほら、かわいい」
「~~~~っ!」

 雪は治るかもしれんが、代償にあたしが殺される。心臓バックバクなんだぞ。
 抗議の視線を送るが、雪はやけにニコニコだ。

「幸ちゃん、まだ熱あるみたいだから、それ脱いじゃダメだよ」

 ……いつ計ったの。
 漏らしかけて、雪があたしに素肌でふれた唯一にして最大の出来事を思い出す。
 アレか。あのときか。
 おのれ、なんと抜け目のないやつ。
 肩に引っかかったダッフルコートをつかみ、うつむく。
 満足そうに胸を張った雪は、傘を持ち直した。

「帰ろう。送ってあげる」

 このときばかりは、思い出したようにぶり返す熱に感謝した。
 吸い寄せられるように、さし出された手を取る。

「ねぇ幸ちゃん、ムリはしないでね」
「……うん」

 クリスマスカラーの傘の下、促されて雪に寄りかかる。

「寂しいときは、だれでもいいから頼ってね。ぼく、今度は怒らないから。おねがいだよ」

 つないだ手は布越しで、物足りない。
 最後に雪がつぶやいた意味も、よくわからなかった。
 ただやわらかいひびきだけが心地良く、淡雪にとける。
 そんな夢のような時間だったことだけは、覚えている。