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あたしのバイト先は、駅からほど近いごくごく普通の喫茶店だ。
ちょっぴり内装がメルヘンチックで、フリフリレースのエプロンドレスが制服ってだけの。
ともかく、ホール担当のあたしは愛想わら……真心のこもった接客を心がけて、今日も1日を終えるはずだった。
だがしかし。
ごひいきさんに混じっておや、一見さんが3人も、とのんきに対応を請け負ったのが運のツキだった。
大学生だとうかがい知れる彼らのうち、窓ガラス越しの白い街にかじりつき、ブツブツつぶやいていたイケメンは、どうもうちのバカ弟子と瓜ふたつで。
重い足でオーダーを取りに向かい、あたしに気づいたそいつがポカンと呆けた瞬間、イヤでも悟ったさ。
そっくりさんじゃねぇ。本人かよ。
そんなこんなで。
あたし佐藤幸は、なぜか頬を染めた客、楓を前に、自分を保つのに必死であった。
「えと、ユキさんは、どのような理由から、メイドさんでサンタさんで妹ちゃんなのでしょうか……」
「うふふっ、ユキここでお仕事してるのー。かわいいお店でしょお?」
「うぐっ……で、では、お、俺ごときをお兄ちゃん呼びしてくれる神シチュは、クリスマス限定スペシャルイベントの一環であると……」
「あ・た・り! ユキ、ダイスキなお兄ちゃんのためにがんばってお料理作ったんだぁ。食べてくれるよね、楓お兄ちゃん!」
あらゆる表情筋を結集させた営業スマイルで、ハート型のプレートをスタンバイ。
当店一番人気「メイドさんのらぶらぶハッピーオムライス」を目前に、楓はぐはっとテーブルに顔面を打ち付けた。
なんだ、あたしがケチャップで呪いを込めて書いた『土に還れ』が、そんなにうれしかったのか。
「ここは天国ですか……そうかそうか、もう俺悔いはないや。おやすみなさい……」
マジか。引くわ、ドン引きだわドM。
「とかいう茶番はやめにして」
「あ、いつものユキさんだ」
「通常販売はこっちのほうなんで、そこんとこヨロシク」
でなきゃ、サンタ帽にツインテール、白いファー付きの真っ赤なミニワンピ、果ては絶対領域なんて、だれが好き好んで提供してやるってんのよ。
仕事だ仕事。
「難攻不落のツンデレユキりん……」
「すみませーん、このバカにあられもないこと吹聴したの、もしかしなくてもやっちゃん先輩ですよねー」
「書いてる! メニュー表に書いてる! 俺がほかのひとと話せないってユキさん知ってるでしょ!?」
そうだ、楓はヘタレだったな。
失念失念。
「すっげー……あの月森がふつうに話せとる」
「月森ィ、おまえ、俺たちの見てないところで、涙ぐましい努力をかさねてたんだな!」
ついでに、やつの友人らが同席していたことも忘れていた。



