ユキイロノセカイ


  *  *  *


 世知辛いこのご時世。
 有能か無能かで分けるなら、間違いなくあたしは後者だ。
 だったらデキる人だけいれば世の中平和におさまるんじゃね? とつくづく思う。

「その髪はなんだ」
「『甘いヘアカラーで、気になるカレもイ・チ・コ・ロ』新発売キャラメルブラウンでーっす」
「なるほど。残念だったな」
「大丈夫、妻子持ちのアラフォー男子とか狙ってないから安心して、先生」

 授業終わりに肩を叩かれた。
 かと思えば、有無を言わさず連行された職員室でほら出たよ、ため息。
 お次は小言がふってくんでしょ。知ってる。

「あのな佐藤(さとう)、おまえも、もう3年の冬だぞ」
「らしいですねー。あ、先生、コーヒー豆変えました? マンデリンおいしいですよねー、苦いけど」
「そう苦いけど。話をもどすぞ。なぁ佐藤、なんだかんだで単位もしっかり取って、もう卒業目前じゃないか。なのに、そのなりじゃあ就職できるもんも……」
「はいはーい、今度ヒマなときに染め直しときまーす。じゃ、あたし帰るんで。お仕事ガンバですー」
「おまえのそういうとこ、ホントたくましいよ」

 ため息をかさねているだろう担任の白い目を背に、とっとときびすを返す。
 教師ほどブラックの似合う職種はないだろう。
 コーヒーの話ね。
 まぁなんにせよ、好き好んでカフェイン中毒予備軍になりたがるんだから、よっぽどの物好きだ。
 あたしはごめんだね。

 香ばしくただよう空気を後ろ手に閉めきる。
 ドアノブに瞬間凍結させられた左手は、コートのポケットにイン。
 薄暗く陰湿な廊下に、スマホのディスプレイがぽうと灯る。
 それがちょうど午前0時を表示したのを確認してから、右のポケットに突っ込んでやった。