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世知辛いこのご時世。
有能か無能かで分けるなら、間違いなくあたしは後者だ。
だったらデキる人だけいれば世の中平和におさまるんじゃね? とつくづく思う。
「その髪はなんだ」
「『甘いヘアカラーで、気になるカレもイ・チ・コ・ロ』新発売キャラメルブラウンでーっす」
「なるほど。残念だったな」
「大丈夫、妻子持ちのアラフォー男子とか狙ってないから安心して、先生」
授業終わりに肩を叩かれた。
かと思えば、有無を言わさず連行された職員室でほら出たよ、ため息。
お次は小言がふってくんでしょ。知ってる。
「あのな佐藤、おまえも、もう3年の冬だぞ」
「らしいですねー。あ、先生、コーヒー豆変えました? マンデリンおいしいですよねー、苦いけど」
「そう苦いけど。話をもどすぞ。なぁ佐藤、なんだかんだで単位もしっかり取って、もう卒業目前じゃないか。なのに、そのなりじゃあ就職できるもんも……」
「はいはーい、今度ヒマなときに染め直しときまーす。じゃ、あたし帰るんで。お仕事ガンバですー」
「おまえのそういうとこ、ホントたくましいよ」
ため息をかさねているだろう担任の白い目を背に、とっとときびすを返す。
教師ほどブラックの似合う職種はないだろう。
コーヒーの話ね。
まぁなんにせよ、好き好んでカフェイン中毒予備軍になりたがるんだから、よっぽどの物好きだ。
あたしはごめんだね。
香ばしくただよう空気を後ろ手に閉めきる。
ドアノブに瞬間凍結させられた左手は、コートのポケットにイン。
薄暗く陰湿な廊下に、スマホのディスプレイがぽうと灯る。
それがちょうど午前0時を表示したのを確認してから、右のポケットに突っ込んでやった。



