ユキイロノセカイ

「ユーキちゃん」
「ん……わ、冷たっ! なにっ?」

 まんまと隙をつき、手のひらに乗ってきたものがある。
 それは真っ白のふっくらボディに、深緑の細長い耳、つぶらな赤い瞳。

「雪ウサちゃんです」
「……作ったの?」
「せっかくの雪なんだもん、ウズウズしちゃって!」

 ニコニコと、セツが得意げに胸を張る。
 そりゃあ、すぐ脇に頃合いな材木が自生してますけども。

「……ふ、はは……あははっ!」

 モミの葉とナンテンの実を摘み、雪をかき集める。
 人々は首を縮めながら通りすぎるだけの広場で、せっせと雪遊びをしてるセツ。
 かわいすぎか。

「なるほど。さっきまでこの子作ってたわけね」
「気に入ってくれた?」
「まーね。でもできれば事前に言ってほしかったかも。すぐとけ、て……」

 言葉じりが冷気に溶ける。
 そのわけは、少しだけ高い場所からあたしを見つめるチョコレート色の瞳が、ひどくやさしげな色をおびていたから。

「ぼくたちの一生も、雪みたいに儚いものなのかもしれない。でも、だからこそ、ぼくたちは生きるんじゃないかな」

 心に入り込むやわらかいひびき。
 思考は止まり、雪ウサギが手のひらへとけゆく。

「人生を1日に例えるなら、ユキちゃんはまだ目が覚めてないんだよ。いろいろ考える前にさ、まず起き上がろう? 寒いけど、カーテン開けたら朝陽がきれいかもしれないじゃない?」

 ポエマーかってくらい独特な言い回し。
 真っ先にわかったのは、どうやらエールっぽいぞってこと。
 手袋をはめた右手がおもむろに頭に添えられ、1回、2回と髪をなでられて.。
 勘弁してよ……
 そんな優しくされたら、あたし。

「大丈夫、きみはきっと幸せになるよ。そういうおまじないがかかってるんだから。ね――(ゆき)ちゃん?」

 ……あたしは、自分の名前が好きじゃなかった。
 幸? とんでもない、不幸の間違いじゃないの? って。
 あんなに嫌っていたのに。
 どうしてセツに呼ばれただけで、目の奥がツンと痛いのか。

「セツ、セツ――(せつ)
「ふふ、そんなに呼ばなくても、ここにいるよぉ」

 一面に降り積もる白銀のごとく、無垢なきみ。
「ぼくもユキ。おそろいですね」とはじめて会った日みたいに笑うから、心がふるえるの。

「幸ちゃん、ぼく、きみが喜んでくれてうれしかったよ。また笑ってほしいなぁ」

 ダッフルコートに押しつけた顔をそっと両手が包み込み、コツン。
 黒いのクセ毛が、ふわりと額をかすめた。
 ったくあんたは、あたしをどんだけ甘やかせば満足すんの。
 くっつけられたひたいのひやりとした温度にすら、頭が沸騰してるのに。

 鼓動が速くて、呼吸がままならない。
 休まるどころか、悪化しちゃったじゃん。
 それでもね、あたしの笑顔が雪を嬉しくさせられるんだったら、もうちょっとだけ、甘えてもいいのかな。

 そうだな……とりあえず、この雪ウサギがとけきってしまうまでは。