ユキイロノセカイ

 お陽さまも傾いて、本日もお勤め終了。
 さぁ帰りましょう!
 なんて充実感は、これっぽっちもない。
 ただものの見事に、全身がダッルい。

「ユキりんって、彼氏できたでしょ」
「……なんですか、その根も葉もない確信は」
「うふふー、隠したってムダよ? 最近お肌ツヤツヤしてるもん。やっちゃんの目に狂いはな~いのっ!」

 更衣室に入るなり絡んできたお姉さまは、一応バイトの先輩である弥生(やよい)さんだ。
 ピンク系のプリンセスメイクに、クルックルに巻いたアッシュブラウンの髪。
 小悪魔女子をウリにしているが、年齢不詳。
 みずからのやっちゃん呼びについては、キャラだから致し方ない。

「最近引っついてるひょろ長い野郎のことですか。ヤツはタダの下僕なんで、気にしないでください」
「下僕ですって……その歳にして、高度なSMプレイを……恐ろしい子!」
「そんなことはしてません」
「えぇ、ちがうのぉ~」

 つくづく思う。
 このひとは、あたしに一体なにを求めているのか。
 つついたって出るもんなんかないのに。
 あ、ため息があるか。はぁ、ダルい……
 そんなことはつゆ知らず、やたら瞳を輝かせた弥生さんは、声高に詰め寄ってくる。

「じゃあじゃあ、気になる彼と一気に距離を縮める秘訣、やっちゃんが伝授しちゃう!」
「そんなんいませんけど、クリスマスの亡霊ですか」
「そうそう亡霊……ってあら? ユキりん知ってるの?」
「さっきホールで、ほかのスタッフがキャッキャッ言ってましたし」

 デートに心霊スポットがどうのこうの。
 クリスマスを前に焦り出したおひとりさま方が、主に食いついておられた。
 つり橋効果狙いの肝試しか。
 ふつう夏にやるもんじゃないの。
 アレか、真冬にこたつでアイス食べたくなる感覚的な?

「興味なさそうねぇ。ユキりんは、いっしょにすごしたい人とかいないの?」
「くじけませんね。いませんて」
「ふとしたときに考えちゃう男性とか!」
「それは……いなくもない、ですけど」

 思わずつぶやいて、ハッと我に返る。
 しかし、こぼれた失言は取り消せない。

「やっぱりいるんじゃなぁ~い! それは恋よ! ユキりんっ!」
「んなわけないです! あいつが勝手にあたしの頭ん中入ってくるだけです!」
「あら、男性だってことは否定しないのね?」
「〜〜〜っ! お疲れさまでしたっ!」

 なんか負け惜しみみたいだ。
 変にカッとしちゃってさ……あぁもう、余計疲れた。ダルい。
 ゆで上がった頭を冷やそうと、足早に店を出たら、だよ。

「あっ!」
「……げ」

 とっさにどこぞの店の立て看板へと飛びのく。
 けれど時すでに遅し。
 キラキラ輝いた焦げ茶色の両目に、あたしはバッチリ捉えられていた。

 特に意識していなくても、知り合いのすがたは不思議と目に入ったりする。
 そうは言ってもね(かえで)、あんたはちょっと、行く先々にいすぎだと思うの。