ユキイロノセカイ

「張れない意地は張るもんじゃないなぁ……ろくな高校生活送れなかったし、大切なひとにも、いっぱい迷惑かけた」
「女のひと? それがトラウマの理由とか?」
「いや、違くて。家族だよ。ひとりになるとね、その偉大さが痛いほどわかる」

 からからと、楓は笑い飛ばした。
 ひとり暮らしあるあるだな。
 親すらいないあたしじゃあ、共感してあげられないけど。

「今夜も寒いな」
「冬だからね」
「ひとっ子ひとり歩いてない」
「冬だからね」
「だったらさ、張れない意地張るのはよしたら?」
「……っ」

 唇を真一文字に引き結ぶ楓。
 ジリジリと頼りない街灯の下、瞳に張った水の膜がキラリと光る。
 見てない。
 あたしは、なにも見てない。

「出迎えの褒美じゃ。今宵はひとつ、うぬの望みを叶えてやろうぞ」
「……だったら」

 はるか夜空、オリオン座辺りを見上げたあたしの両肩をつかむ。
 やがて楓は、白い吐息とともに、かすれた声を吐き出した。

「ちょっとだけ、貸してください……」

 左の肩口を、楓の額がかすめる。
 近いようで、すぐに離れてしまいそう。

 バカだね。

 しびれを切らし、1歩。スペースの空きまくった両脇の下から、腕をまわし込んでやる。
 さぁ、ムダな距離は埋めてやったぞ。
 どうするかはあんた次第だ、楓。

 そば立てた左耳に、ふるえる吐息がふれた。
 ユキさん、という呼び声に答える間もなく、引き寄せられて。
 今度はあたしを抱き込むように腕を回されて、まぶたを閉じる。

 ヒマ潰しなんて口実で、ホントは吐き出し口を探して長い間さまよってた、タダの迷子。
 幸い、あたしは気づけたから。
 せっかくひょろ長いからだ折ってまですがりついて来てるんだから、背中さするくらいはするさ。
 だって、こんなに温かいじゃないか。
 楓は、ちゃんとここにいるよ。

 そんなことを思っていた時期が、あたしにもありましたね。

「……ユキさん」
「なんだ」
「やばいっす。ユキさんやわらかいっす。俺、なんか気分がぽわぽわしてきた……」
「即刻離せ、ケダモノォッ!」

 もぞもぞ、と顔を埋める動きが、なんともよろしくない。
 ちょっと楓さん、そこはドコだと思ってるんですかねぇ……!

「ちょっ、そんなつれないこと言わないで! もーちょっとだけ胸貸してっ?」
「ひゃあああさわんな 変態ぃいいい!」
「いっでぇっ!?」

 女性恐怖症とかウソだ、でっち上げだ。
 しおらしいからやさしくすればいい気になりやがって、あたしの心配返せ!

「破門! 破門だからっ!」
「そんなお師匠さまぁあああ!」

 問答無用で、絡みついてくる野郎を蹴り飛ばす。
 おかげでなかなか家路を急げやしない。
 カァカァと、すがたの見えないカラスに笑われた気がした。