ユキイロノセカイ

 朝起きて、バイトして、学校に行って、夜中布団にもぐり込む。
 ただくり返すだけのあたしの日常に、ちょっとした変化がおとずれた。

「おいそこの不審者、通報するぞ」
「へっ? あっユキさん、待ってた!」

 日付が変わり、校舎の明かりだけが頼りの校門にて。
 ひょろ長い影があるなと思えば、(かえで)である。
 ニマッといまとなっては見慣れた笑顔をきらめかせ、あたしに向かって右手をあげた。
 マイナスイオンをまき散らすな。
 真冬だぞ。

「なんでいんの」
「ユキさん、いつも帰り遅いんだろ? 俺もどーせヒマだし、時間を有効活用しようと思ってさ」
「で、このくそ寒い中待ちぼうけ? ドMなの?」
「違うって! そんな待ってないしっ!」

 たわけ。
 防寒したつもりだろうがな、トナカイ顔負けの赤い鼻見りゃ、どんだけいたかなんて一目瞭然だ。

「ふぅん。好きにしたら?」

 却下されるとでも思ったんだろうか。
 ぱぁっと瞳を輝かせた楓は、先に歩きはじめたあたしに駆け寄ってきた。
 肩を並べられると……うん、意外と。
 セツにはないものがあるな。

「楓は、彼女作らないの」
「えっ、かっ、彼女? なんで!?」
「ひょろ長……背ぇ高いし、よくよく見ればイケメンに見えなくもないから」
「俺、女性恐怖症なんだってばぁ……」
「健全な思春期男子でもあるだろうがよ」

 ひとり暮らしの男子大学生ってこう、不摂生の塊みたいな偏見があったからか。
 楓はイレギュラーだった。

 自販機よりも高いだろうスラリとした長身、それを際立たせる深緑のフィールドジャケットとジーンズ。
 差し色に、足もとはオレンジのスニーカー。
 うん、あたしは嫌いじゃない。
 顔よしファッションセンスよし、背も高くて明るい性格。
 ただ。

「その髪は、生まれつき?」
「……あぁ。地毛、なんだよね」

 ちょっとおバカなのを除けば文句なしの楓に唯一疑問があるとすれば、苦笑しつつふれた焦げ茶色の短髪くらいか。

「変なこと訊いたね。悪かった」
「信じてくれんだ」
「染めてる人間に言う? そうかそうでない区別くらい、なんとなくつくわ」
「そっか……」

 曖昧にうつむく楓は、もしかしなくともそのレベルに達しない連中に、なにやら言われてきたんだろう。
 ふと現れた曇り顔が、ととのった横顔に影を落とす。

「俺さ、こんなナリしてる上に、昔結構ヤンチャしてたんだ」
「楓の分際で?」
「うぐっ」
「だってあんた、ヘタレじゃんね」
「ユキさんキッツ……事実だけど!」
「まぁおおよそ、ナメられないように猫かぶってたってところか」
「……うん、そう」

 すらりと長い足が歩を止める。
 ヒュウと夜風がすり抜け、焦げ茶色の髪に吹きつけた。