ユキイロノセカイ

「セツ……スネてる?」
「スネてません」
「じゃあこっち向いて」
「ごめん、いまちょっとムリです」

 それは、スネてますと言っているようなもの。
 うぬぼれじゃない。
 いつもヘラヘラしてるセツが、本気でそっぽ向いて座ってんだから。

「やば……かわいい」
「ユキちゃん、それはあんまりじゃないかな! ぼく怒ってるんだよ!」
「認めたし」
「…………あ」

 チョコレート色の瞳をぱちくりさせたセツが、いそいそと居住まいを正す。
 かと思えば、うつむき気味に前髪を掻いた。
 なんだそれは、顔でも隠してるつもりか。
 セツの不可解な行動は、ふわっふわなクセ毛がふわっふわであるがゆえに、無駄足に終わる。

「はいはい、悪あがきやめて」
「ふわぁ……!」

 わしゃっとクセ毛に手をのばしたら、かわいらしい悲鳴が聞こえた。
 ふつう「うわっ!」とか「ぬおっ!」とか(りき)みそうなものを。
 どこまでも小動物だな。

「女子なの?」
「ちがうもん、男の子だもん……」
「女子だね。よしよし」

 いくら引きのばそうが、この黒髪はぴょこんっと定位置にもどる。
 なんか、面白い。
 クセ毛なのに全然絡まってない。
 夢中になって指を通してたら、ガクリとセツがうなだれた。

「いじわる……」

 そうかそうか。
 途方に暮れてるセツは、無性にかわいいぞ。
 なんかこう、なでまくりたいほほ笑ましさで胸がいっぱいになっていると、セツが真顔で正面に向き直ってきた。

「ユキちゃん、楓くんに会うなとは言いません。でもね、たまに、たまーにでいいので、ぼくのことも思い出してね……?」
「バカ、先に拾ったのはセツだよ。ちゃんと最後まで面倒見る」
「わぁ、ほんと!」
「ぴょこぴょこ跳ねおって、ウサギか」
「そう! だからユキちゃんがいないと、寂しくて死んじゃうの!」
「……ふはっ!」

 切実な訴えを受けた。
 イジリすぎたか。ちょっと反省。
 なにはともあれ、ささやかな主張は、見事ツボにハマった。
 きょとんとしてるセツがおかしくって、あたしは余計、お腹を抱えて笑い転げなきゃいけなくなるのだった。
 あー、久々に笑った笑った。