ユキイロノセカイ

「いらっしゃい、ユキちゃん」
「……ん」

 ひさしぶりにのぞいた茜空。
 淡いあたたかみをおびた白銀の噴水広場で、待ち合わせ。
 目印にしているクリスマスカラーの傘は閉じられ、レンガ造りのへりに立てかけられてある。
 代わりに、となりで陽だまりみたいな笑顔がふわりとほころんだ。
 手まねきされるまでもなく歩を進めたあたしは、今日も今日とて、セツの思惑通りにならび座るのだ。

「……ぷくく!」
「笑いごっちゃない!」
「だってユキちゃん、男前すぎでしょ。そりゃあ心のお師匠さまにもしたくなるよ」
「あんたらには、歳上のプライドがないんか」

 なんか、弟子ができた。
 一連の出来事をありのままに話せば、このザマである。
 クスクス肩をふるわせていたセツが、あるときコテン、と小首をかしげた。

「その(かえで)くんには、会ってるの?」
「傷口にハンカチ、押しつけられたし。返さないわけにはいかなくて」
「そうだよねぇ……名誉の負傷したところ、大丈夫? 化膿とかしてない?」
「あんたもしつこいね。かさぶたになってる。すぐ治るって」
「よかった! よいしょっと……」

 ホッとするのはわかる。
 だがセツ、なぜ腕をのばしてくる?

「よしよし、よくがまんしたね」

 まさかと思えば、案の定である。
 幼いこどもでも相手にしてるみたいに、あたしの頭なでなでしてさ。

「この程度のケガで泣くほど、あたしこどもじゃない」
「知ってるよぉ。これはね、怖いのによくがんばったで賞」

 ド忘れするくらい自分のことには疎いくせに、セツは時々、エスパーかってくらい鋭い。

「この傷、目のほんとすぐ下にあるんだもん。見えなくなったらって思うと、ぼくでも怖いよ。ユキちゃんはなおさらでしょう?」

 見えること、聞こえること。
 当たり前の感覚が、そうじゃなくなる怖さ。
 危機にでも立たされない限り、人はその尊さに見向きもしない。
 あたしだってそう。
 だから、自分のことみたいに心配してくれるセツは、純粋にすごいと思う……言わないけど。

「って、なにニヤけてんの」
「んー? いじっぱりなユキちゃんにもお友だちができたのかぁって思うと、うれしくて」
「……セツは、いいの? あたしがほかのひとといても」

 バカ、なに口走ってんだあたし。
 こどもじゃないって言い張った舌の根も乾かぬうちに、コレだよ。
 巻きもどしなんてできるわけもなく。
 頭を上げられずにいると、なでる手がふと離れる。

「……当たり前でしょ? ユキちゃんは、ぼくだけのものじゃないもの」

 ぽつりとこぼれた声音は、セツにしては硬い。
 不自然な間もあったし、まさか、とは思ったけど。