* * *
「はぁっ、はぁっ……はぁっ!」
「……大丈夫ですか?」
「なわけあるかボケ! こちとらか弱い乙女だぞ、加減くらいしろやボケェッ!」
「うわぁあ! すみませんすみませんすみませんッ!」
人通りの多い中央街に入り、ギャルザーの魔の手から逃れることはできた。
満身創痍だがな。
「いつまで握ってんの、あんた子供!?」
意外に俊足だったひよ男。
いまだガッシリつかんで離さない腕をブンブンふれば、はじめて気づいたように目をまん丸にする。
「…………て、る」
「は?」
「さわ、れてる。俺さわれてる! っはは、すげー!」
「人の話を……聞けッ!」
「ってぇっ!?」
よくわからん理由で歓喜しておる野郎に、膝蹴りをお見舞いしてやった。
あたし渾身の一撃に、みぞおちを押さえ、ひょろ長いからだを折るが。
「えっ、なにニヤけてんの? Mなの? うわぁ……」
「引かないでください!?」
「寄るなドM! 感染る!」
「待って待って待って! 俺の話聞いてください!」
「ええいわかった! わかったから抱きつくなぁっ!」
ひよ男はあたしが逃げないと知ると、やっとからだを離した。
いや、腕も離してね?
周囲の視線がグサグサ痛いからね?
「助けてくれて、ありがとうございます……」
こら、人と話すときは相手の目を見ろと、お母ちゃんから習わなかったか。
とかいう説教は、叶わない。
「すみません、俺、ちょっと……っていうかかなり、女のひとが苦手で」
「はぁ、で?」
「なんていうか、トラウマがあって……目とか合わせられないし、ふれるとか、もってのほかで。そこにいるってだけでも、からだがふるえちゃって……」
「詰まるところは、女性恐怖症なの?」
「です……」
てことは、だ。
ギャルザーに反抗しなかったんじゃなくて、そもそも足がすくんで動けなかったと。
そういや絡まれてるときに、ムダに長い脚が、産まれたての子鹿みたくふるえていたような気も。
「ちなみに、どのような症状がありますか」
「じんましん出ます。ひどいときは、冷や汗出て、過呼吸になったり……」
「重症だなおい。まぁ、あいつの前で立ってただけでも、よくできましたというか」
……いや、待て待て。
大事なことを忘れてないか。
「それを踏まえて、あたしの腕をつかんでるのは、どういった事情で?」
「俺にもちょっとよくわからないです!」
「はぁ? それはなにか、あたしが女じゃないとでも?」
「そっ、そういうわけじゃなくてっ!」
「じゃあどういうわけ!」
「た、たぶん、きみだとオッケーなのかも!」
「説明になっとらん!」
「でも実際、苦しくないし! じんましん出るどころか、ふれてると安心して、だから、本能的に心が許せるひと……なんだと、思い、マス……」
なにこいつ、ロマンチスト? 天然タラシ?
よくもまぁ歯の浮くようなセリフを次々と。
「本当に、ありがとう」
疑った矢先に、視線合わせてきやがって。
おあえつらえ向きに、顔がいいときた。
自覚なんてないだろう。
なんて憎たらしいヤツ。



