ユキイロノセカイ

 ちらちら――……
 ひたいをかすめるなにか。
 世界は、結露した窓ガラスのよう。
 なにもかもが、ぼんやりと曖昧(あいまい)だ。

(寒い……)

 どうやらあたしは、この期におよんで生にしがみついているらしい。
 だからって、ほうり出されたマフラーに手をのばそうとは思わないけど。
 もういいや、眠くなってきた。
 休ませてよ……

「お疲れさま」

 やわらかいひびきが、冷えきった鼓膜をふるわせる。

(だれかいるの……?)

 気のせいかと思ったけど、そばに立つだれかの気配はたしかなもので。

 ゆらりとかかる影。
 鉛みたいなまぶたを押し上げる。
 そこには、ひとりの少年がたたずんでいた。
 白銀の世界に映える黒髪。
 ふわふわしたクセ毛のそいつは、チョコレート色の瞳を細める。

「だけどね、まだダメ。もうちょっとの辛抱です」

 知らないのに、会ったこともないはずなのに、じんわりと胸にとけ込むような心地いい声だ。
 少年は腰をかがめ、仰向けのあたしをのぞき込む。
 そうして笑みを浮かべたまま、肩にもたれさせた傘をさし出してきた。
 クリスマスカラーのタータンチェックが、ぼやけた視界一面を彩る。

「帰ろっか」

 白銀の結晶が舞う12月の夜。
 こんなあたしにも、サンタがおとずれたようだ。
 どんなクリスマスキャロルよりもやさしいひびきと、ほほ笑みをたずさえて。