激情ヱレキてる


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 2XXX年、X月X日。都内某保健センター。
 多目的ホールのそこかしこには、親子づれの姿が。
 会議用の木製テーブルを間に挟み、保健師と向かい合っている。

「今回で3歳児検診が終了となりますね。それでは最後に、ご案内させていただきます」

「『マイクロチップ埋蔵手術』ですよね」

「はい。あかりちゃんの健康状態に問題はまったくありませんので、手術は可能です。こちらをごらんください」

 ふくよかで人の良さそうな女性保健師が、厚手のパンフレットを取り出す。
 カラフルな光沢紙の蛇腹が、テーブル上に広げられた。

 1歳半から、歯科検診の際には毎回唾液を提出することになっている。
 唾液中コルチゾール、IgA(アイジージーエー)、テストステロンというストレス・バイオマーカーなるものを調べるため、らしい。
 この測定値であったり、3歳までの心身発達の度合いであったり、さまざまな要素を考慮した上で、任意で『マイクロチップ埋蔵手術』を受けることができる。
 区のホームページからダウンロードできるパンフレットに記載されていたことと、なんら相違はない。

『マイクロチップ』は、国が推奨している『人力発電』には欠かせない代物だ。
 幼い子供の頭蓋骨に穴を開ける手術となれば、不安の声をあげる親も少なくない。
 ゆえに、埋蔵手術にかかる費用は全額免除という太っ腹仕様だ。
 安全性を合言葉に、この政策を推し進めたい政府の意思のあらわれとも言えるだろう。

「テストステロンは男性ホルモンの一種でもありますので、優先度は下がりまして……唾液の検査結果から、あかりちゃんの『マイクロチップ』は『Type-C』となりますね」

 いかがなさいますか? と最後の決断を委ねる一方で、女性保健師は確信を得てもいた。
 向かい合う母親のような表情を、もう幾度となく目にしてきたためだ。

 カラフルな蛇腹は元通りに折りたたまれ、白と黒の単調な紙面に打って変わる。
 その隅っこをボールペンでカリカリと引っかく母を、幼子のまあるい瞳が、じっと映し込んでいた。