恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
同じ道 歩ける奇跡 噛みしめて 明日の景色を 二人で待つ 


【短歌をテーマにした物語】
「ねえ、知ってる?」

彼女は窓の外を見ながら、静かに笑った。

「同じ道を歩けるって、すごいことなんだよ」

僕には、その言葉の意味が分かっていた。

彼女にとって、歩くということは、誰にでもできる当たり前のことではなかったから。

僕が彼女――白石優奈と偶然に出会ったのは、病院の中庭だった。

同じ学校の制服を着ているのに、彼女は教室ではなく病室で時間を過ごしていた。

体が弱く、長い間学校を休むことも多い。

それでも彼女は、いつも笑っていた。

「学校って、どんな感じ?」

初めて話した時、彼女はそう聞いた。

「普通だよ」

僕が答えると、優奈は笑った。

「普通って、いいね」

その笑顔が、なぜか忘れられなかった。

僕は、学校帰りに病院へ寄るようになった。

授業の話。

クラスの出来事。

くだらない失敗。

そんな話をすると、優奈は楽しそうに聞いてくれた。

「いいなあ」

「何が?」

「毎日、同じ道を歩けること」

僕は首をかしげた。

「そんなに特別なことじゃないよ」

すると優奈は少し寂しそうに笑った。

「私には、特別なんだ」

その言葉が胸に残った。

春の終わり。

優奈の体調が少し良くなった。

医師から短時間なら外出してもいいと言われたらしい。

「行きたい場所がある」

そう言われて、僕は彼女を連れ出した。

向かったのは、学校までの通学路。

桜はもう散っていたけれど、道には春の名残が残っていた。

優奈はゆっくり歩いた。

一歩。

また一歩。

疲れたら休む。

それでも、彼女は嬉しそうだった。

「夢みたい」

「大げさだよ」

僕が笑うと、彼女は首を振った。

「違うよ」

「何が?」

「好きな人と同じ道を歩けることって、本当に奇跡なんだよ」

それからの日々。

僕たちは少しずつ、一緒に歩く時間を増やした。

病院から近くの公園まで。

公園の入り口からベンチまで。

短い距離でも、優奈にとっては大切な思い出だった。

「今日、ここまで来られたね」

「うん」

「来週は、もう少し先まで行けるかな」

「行こう」

僕は答えた。

でも心の奥では、不安もあった。

彼女の体調は、いつも同じではない。

昨日できたことが、明日できるとは限らない。

その現実を、僕は知っていた。

ある雨の日、優奈は約束していた散歩に来られなかった。

病室で眠る彼女を見ながら、僕は悔しかった。

どうして。

どうして彼女ばかり。

そんな思いが込み上げた。

すると、優奈が目を覚ました。

「泣いてる?」

「泣いてない」

「嘘」

彼女は弱々しく笑った。

「ねえ」

「何?」

「私、かわいそう?」

僕は答えられなかった。

すると優奈は続けた。

「私はね、かわいそうじゃないよ」

「だって……」

彼女は窓の外を見る。

「あなたと歩いた道があるから」

その言葉に、僕は涙をこらえた。

季節は巡った。

卒業式の日、優奈は特別に学校へ来ることができた。

久しぶりの校舎。

久しぶりの友達。

そして、僕と歩く帰り道。

ゆっくり。

ゆっくり。

二人で歩いた。

「疲れてない?」

「大丈夫」

優奈は笑った。

「今日の景色、忘れない」

僕も忘れない。

この時間を。

この歩幅を。

僕たちは今も一緒にいる。

体調が良い日もあれば、そうでない日もある。

遠くまで旅行に行けないこともある。

でも、幸せは距離では決まらない。

家の近くを少し散歩するだけでも。

窓から同じ空を見るだけでも。

隣に大切な人がいるなら、それは特別な時間になる。

ある春の日。

優奈と並んで歩く。

昔より少しゆっくりした歩み。

でも、確かな一歩。

彼女が空を見上げて言う。

「明日は、どんな景色が見えるかな」

僕は笑う。

「一緒に見に行こう」

彼女も笑った。

同じ道を歩けること。

同じ未来を願えること。

それは決して当たり前じゃない。

だからこそ、僕たちは今日も噛みしめる。

一歩一歩の幸せを。