恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
ありがとう 言うたび君が 笑うから 何度も言える 大切な人


【短歌をテーマにした物語】
「ありがとう」

そう言うたび、彼は笑った。

「また言ってる」

少し困ったような顔をしながら、それでも嬉しそうに。

その笑顔を見るたび、私は思う。

この人に出会えてよかった。

何度でも、この言葉を伝えたい。

高校一年の春。

私――春川美優は、人見知りで友達を作るのが苦手だった。

新しい教室。

知らない顔ばかりの中で、私はいつも窓際の席で静かに過ごしていた。

そんな私に初めて話しかけてくれたのが、隣の席の彼だった。

「スマホ、落ちたよ」

拾って渡してくれた彼の名前は、佐伯翔太。

「ありがとう」

それが、私たちの最初の会話だった。

「どういたしまして」

彼は笑った。

その笑顔が、春の日差しみたいに温かかった。

それから、翔太くんはよく話しかけてくれるようになった。

「やあ、元気?」

「うん。ありがとう」

「何もしてないけど?」

「話しかけてくれたら元気になった」

「それだけ?」

「うん」

すると彼はいつも笑った。

「美優って面白いね」

私は彼のその笑顔を見るのが好きになった。

ある雨の日、私は傘を忘れてしまった。

どうしようかと校門で立ち尽くしていると、翔太くんが声をかけてくれた。

「入ってく?」

「でも、迷惑じゃ……」

「いいよ」

二人で歩いた帰り道。

肩が触れそうなくらい近い距離。

雨音の中、私は何度も心の中で叫んでいた。

嬉しい。

幸せ。

でも、口から出た言葉はいつもの一つだけだった。

「ありがとう」

翔太くんは笑った。

「美優は、それしか言わないね」

「だって、本当にありがとうって思ってるから」

「じゃあ、その顔もありがとうって言ってるね」

「え?」

「嬉しそうな顔してる」

恥ずかしくて、私は下を向いた。

でも、彼には見られていた。

二年生の冬。

翔太くんが風邪で学校を休んだ。

たった一日。

それだけなのに、教室が寂しく感じた。

いつも聞いていた声。

いつも見ていた笑顔。

私はその時、初めて気づいた。

私は彼の優しさに甘えていたんじゃない。

彼がいる毎日を、大切に思っていたんだ。

次の日、翔太くんが学校に来た。

「もう大丈夫なの?」

「うん」

「よかった」

自然に言葉が出た。

「ありがとう」

翔太くんが少し驚いた顔をした。

「何で美優がお礼言うの?」

「だって……」

私は笑った。

「また笑顔が見られたから」

彼は少し黙った。

そして、照れたように笑った。

「そういうところ、ずるいよ」

「え?」

「好きになる」

時間が止まったようだった。

「今……なんて?」

翔太くんは顔を赤くした。

「俺、美優のこと好き」

胸がいっぱいになった。

嬉しくて、涙が出そうになった。

「私も……好き」

そう伝えると、翔太くんはいつもの笑顔になった。

その瞬間、私は思った。

この笑顔を、ずっと守りたい。

付き合い始めてからも、私は変わらなかった。

荷物を持ってくれた時。

落ち込んだ時に励ましてくれた時。

何でもない日に一緒に笑った時。

私は何度でも言う。

「ありがとう」

翔太くんは笑う。

「本当に何回言うの?」

「何回でも」

「理由は?」

私は答える。

「君が笑ってくれるから」

卒業の日。

桜の花びらが舞う校庭。

私たちは並んで歩いていた。

初めて出会った日のことを思い出す。

「ありがとう」

その小さな一言が、私たちの恋の始まりだった。

未来のことは分からない。

これから先、楽しいことばかりではないかもしれない。

でも大丈夫。

どんな日も、私は伝え続ける。

あなたがそばにいてくれる幸せを。

あなたが笑ってくれる嬉しさを。

何度でも。

何年経っても。

「ありがとう」

その言葉は、私にとって想いを伝える一番大切な言葉だから。