恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
 レース越し 鏡に映る 白い夢 隣で笑う 君を見つめる
 

【短歌をテーマにした物語】
 休日の午後。

 私は彼と一緒に、ウェディングドレスの店を訪れていた。

「緊張する?」

 隣を歩く彼が聞いてくる。

「少しだけ」

「なんで?」

「だって……」

 私は店内を見渡す。

 白いドレスが、いくつも並んでいる。

「本当に結婚するんだなって、急に実感しちゃって」

 そう言うと、彼は少し照れたように笑った。

「俺も同じ」

 その一言だけで。

 胸の奥が、ふっと温かくなった。

 *

「こちらはいかがでしょう?」

 スタッフさんに勧められたドレスを手に取る。

 細かなレースが施されている。

 触れると、とても軽かった。

「試着してみますか?」

「はい」

 試着室へ入る。

 カーテンが閉じられる。

 スタッフさんに手伝ってもらいながら着替える。

 鏡の前に立つ。

 白いドレス。

 普段の自分とは、まるで違う姿だった。

「……どうしよう」

 思わず呟く。

「変じゃないかな」

 カーテンの向こうから彼の声がする。

「見てもいい?」

「……うん」

 カーテンが開く。

 彼がこちらを見る。

 一瞬。

 彼が何も言わなかった。

「……どう?」

 不安になって尋ねる。

 すると彼は。

 少しだけ笑った。

「似合ってる」

「それだけ?」

「それだけじゃないけど……」

 彼は少し考えてから言った。

「なんか、綺麗だなって思った」

 その言葉に。

 頬が熱くなる。

「……ありがとう」

「うん」

 私は鏡を見る。

 鏡の中には、白いドレスを着た自分。

 そして、その隣には彼がいる。

 レース越しに見る彼の姿は、いつもより少しだけ遠く見えた。

 でも。

 その笑顔だけは、いつもと変わらなかった。

 *

「次はこちらも試してみましょうか」

 二着目。

 三着目。

 白いドレスにも、いろいろな形がある。

 袖の長さ。

 レースの模様。

 裾のデザイン。

「どれが一番好き?」

 彼に聞いてみる。

「うーん……」

 彼は真剣な顔でドレスを見比べる。

「全部似合ってるから、分からない」

「それ、答えになってないよ」

「じゃあ、一番好きなのを選ぶ」

「うん」

「今着てるやつ」

「……ずるい」

 思わず笑ってしまう。

 そんな会話をしながら。

 何着も試していく。

 楽しかった。

 でも。

 ふと、思う。

 今日選ぶのは。

 ただの服じゃない。

 いつか迎える、その日のための一着。

 そう思うと。

 少しだけ怖くなった。

 *

 最後に、最初に試着したドレスをもう一度着た。

 レースの細かな模様。

 裾に広がる白。

 鏡の中に映る自分。

 私は、しばらく黙っていた。

「どうしたの?」

 彼が尋ねる。

「ううん」

 私は首を横に振る。

「なんだか、不思議だなって」

「何が?」

「今までずっと、結婚式って遠い未来の話だと思ってた」

「うん」

「でも今、こうしてドレスを着てる」

 鏡を見る。

 そこには。

 白いドレスを着た私と。

 その隣で笑っている彼。

「本当に、これから一緒に生きていくんだね」

 そう言うと。

 彼は少し驚いたように私を見る。

「……今さら?」

「今さら」

 二人で笑う。

 そして彼は。

 鏡の中の私を見ながら言った。

「これからも、こういう日が増えるんだろうね」

「こういう日?」

「一緒に何かを選んだり、迷ったりして」

「うん」

「最後には二人で決める」

「……それ、いいね」

 私は笑った。

 ドレスを選ぶだけの一日。

 そう思っていた。

 けれど。

 本当は。

 これから先の時間を、二人で選んでいく練習だったのかもしれない。

 *

「これにします」

 私は最初に着たドレスを指差した。

「本当にこちらで?」

「はい」

 スタッフさんが嬉しそうに笑う。

 隣を見る。

 彼も笑っていた。

「決めたね」

「うん」

「楽しみだね」

「うん」

 その言葉を聞いて。

 胸の奥がいっぱいになった。

 レース越し
 鏡に映る
 白い夢
 隣で笑う
 君を見つめる

 鏡の中に映っていたのは。

 白いドレスだけじゃなかった。

 その隣にいる人と。

 これから作っていく未来。

 まだ見えない明日まで。

 白い夢の向こう側まで。

 二人で歩いていけたらいい。

「ねえ」

「ん?」

「このドレスにしてよかった」

「俺も」

「まだ式の日じゃないのに?」

「だからこそだよ」

 彼が笑う。

 私はもう一度、鏡を見る。

 そこには。

 白いドレスを着た私と。

 隣で笑う君がいる。

 その光景を。

 私はきっと、ずっと忘れない。