【短歌】
声援を 送るふりして 呼ぶ名前 君に届けば それだけでいい
【短歌をテーマにした物語】
体育館いっぱいに、歓声が響いていた。
「いけー!」
「頑張れー!」
今日はバスケットボール部の地区大会。
私はクラスメイトと一緒に、二階の観客席からコートを見つめていた。
そして。
コートの中にいる君を、ずっと目で追っていた。
普段はあまり目立つほうではない。
授業中も静かで、休み時間も友達と話しているくらい。
でも、体育の時間になると少し違う。
走る姿。
ボールを追う姿。
チームメイトに声をかける姿。
真剣な横顔。
私は、そんな君を見るのが好きだった。
「あと少し!」
試合が終盤に入る。
点差はわずか。
君がボールを受け取った。
相手をかわして、ゴールへ向かう。
「いけっ!」
思わず立ち上がる。
シュート。
ボールがリングに当たって――。
入った。
「やった!」
観客席から歓声が上がる。
私も拍手をする。
君がチームメイトとハイタッチをしている。
その笑顔を見て、私まで嬉しくなった。
試合は、残り数分。
相手の攻撃。
君が走る。
ボールを奪う。
また走る。
その背中を、私は夢中で追いかけた。
「頑張れ!」
周りの声に合わせて叫ぶ。
「負けるな!」
また声を出す。
けれど、本当は。
私は違う言葉を叫びたかった。
――君の名前を。
でも。
名前を呼ぶのは、なんだか恥ずかしかった。
クラスのみんなも応援している。
だから、私も応援しているだけ。
そういうことにしていた。
残り十秒。
同点。
君にボールが渡った。
「いけー!」
体育館中から声が飛ぶ。
君が走る。
残り五秒。
相手選手をかわす。
残り三秒。
ゴールへ向かう。
残り二秒。
私は立ち上がっていた。
「――!」
声が出なかった。
君の名前を呼ぼうとした。
けれど、喉の奥で止まった。
一秒。
君がシュートを放つ。
ボールが高く弧を描く。
ブザーが鳴った。
一瞬の静寂。
そして――。
ボールがリングを通った。
「入ったー!」
体育館が歓声に包まれる。
私は夢中で拍手していた。
嬉しくて。
胸がいっぱいで。
気づけば、涙が少し出ていた。
試合が終わった。
勝った。
観客席から降りて、私は体育館の出口へ向かう。
選手たちが戻ってくる。
その中に君がいた。
汗を拭きながら、友達と笑っている。
私は足を止めた。
今なら。
今なら名前を呼べるかもしれない。
「……」
口を開く。
けれど、また声が出ない。
君がこちらに近づいてくる。
「応援、ありがとな」
「え?」
「聞こえてた」
心臓が跳ねた。
「……私の声?」
「うん」
君が笑う。
「結構大きかったよ」
「そ、そうかな」
「うん。なんか、頑張れた」
私は何も言えなくなった。
君が友達に呼ばれる。
「じゃあ、また後で」
「うん」
君は手を振って、体育館の奥へ戻っていった。
私はその背中を見つめる。
届いていた。
名前を呼べなかったけれど。
ちゃんと、私の声は君に届いていた。
帰り道。
私は一人で駅へ向かっていた。
夕暮れの空を見上げる。
今日の試合を思い出す。
最後のシュート。
君の笑顔。
そして。
「応援、聞こえてた」という言葉。
私は少しだけ笑った。
次の試合では。
もう少しだけ、大きな声で呼んでみよう。
みんなと一緒の「頑張れ」じゃなくて。
ちゃんと君に届くように。
君の名前を。
声援を 送るふりして 呼ぶ名前 君に届けば それだけでいい
【短歌をテーマにした物語】
体育館いっぱいに、歓声が響いていた。
「いけー!」
「頑張れー!」
今日はバスケットボール部の地区大会。
私はクラスメイトと一緒に、二階の観客席からコートを見つめていた。
そして。
コートの中にいる君を、ずっと目で追っていた。
普段はあまり目立つほうではない。
授業中も静かで、休み時間も友達と話しているくらい。
でも、体育の時間になると少し違う。
走る姿。
ボールを追う姿。
チームメイトに声をかける姿。
真剣な横顔。
私は、そんな君を見るのが好きだった。
「あと少し!」
試合が終盤に入る。
点差はわずか。
君がボールを受け取った。
相手をかわして、ゴールへ向かう。
「いけっ!」
思わず立ち上がる。
シュート。
ボールがリングに当たって――。
入った。
「やった!」
観客席から歓声が上がる。
私も拍手をする。
君がチームメイトとハイタッチをしている。
その笑顔を見て、私まで嬉しくなった。
試合は、残り数分。
相手の攻撃。
君が走る。
ボールを奪う。
また走る。
その背中を、私は夢中で追いかけた。
「頑張れ!」
周りの声に合わせて叫ぶ。
「負けるな!」
また声を出す。
けれど、本当は。
私は違う言葉を叫びたかった。
――君の名前を。
でも。
名前を呼ぶのは、なんだか恥ずかしかった。
クラスのみんなも応援している。
だから、私も応援しているだけ。
そういうことにしていた。
残り十秒。
同点。
君にボールが渡った。
「いけー!」
体育館中から声が飛ぶ。
君が走る。
残り五秒。
相手選手をかわす。
残り三秒。
ゴールへ向かう。
残り二秒。
私は立ち上がっていた。
「――!」
声が出なかった。
君の名前を呼ぼうとした。
けれど、喉の奥で止まった。
一秒。
君がシュートを放つ。
ボールが高く弧を描く。
ブザーが鳴った。
一瞬の静寂。
そして――。
ボールがリングを通った。
「入ったー!」
体育館が歓声に包まれる。
私は夢中で拍手していた。
嬉しくて。
胸がいっぱいで。
気づけば、涙が少し出ていた。
試合が終わった。
勝った。
観客席から降りて、私は体育館の出口へ向かう。
選手たちが戻ってくる。
その中に君がいた。
汗を拭きながら、友達と笑っている。
私は足を止めた。
今なら。
今なら名前を呼べるかもしれない。
「……」
口を開く。
けれど、また声が出ない。
君がこちらに近づいてくる。
「応援、ありがとな」
「え?」
「聞こえてた」
心臓が跳ねた。
「……私の声?」
「うん」
君が笑う。
「結構大きかったよ」
「そ、そうかな」
「うん。なんか、頑張れた」
私は何も言えなくなった。
君が友達に呼ばれる。
「じゃあ、また後で」
「うん」
君は手を振って、体育館の奥へ戻っていった。
私はその背中を見つめる。
届いていた。
名前を呼べなかったけれど。
ちゃんと、私の声は君に届いていた。
帰り道。
私は一人で駅へ向かっていた。
夕暮れの空を見上げる。
今日の試合を思い出す。
最後のシュート。
君の笑顔。
そして。
「応援、聞こえてた」という言葉。
私は少しだけ笑った。
次の試合では。
もう少しだけ、大きな声で呼んでみよう。
みんなと一緒の「頑張れ」じゃなくて。
ちゃんと君に届くように。
君の名前を。



