【短歌】
その瞳 見つめるだけで 伝われば 言葉はいらぬ恋なのだけど
【短歌をテーマにした物語】
放課後の教室には、私と彼の二人だけが残っていた。
窓の外では、夕方の風が校庭の木々を揺らしている。
私は机の上に広げたノートを見つめていた。
けれど、さっきから一行も進んでいない。
理由は簡単だった。
向かいの席に、彼がいるから。
「まだ終わらない?」
彼が笑う。
「うん……もうちょっと」
「じゃあ、俺も待ってる」
「先に帰っていいよ?」
「いいよ。俺も暇だし」
そう言って、彼は頬杖をついた。
そして私を見る。
目が合った。
「……」
慌てて視線をノートに戻す。
胸が、どくんと鳴った。
彼とは、入学してからずっと仲がいい。
休み時間に話したり、一緒に帰ったり。
困っていると助けてくれるし、私が落ち込んでいると、いつも気づいてくれる。
だから私は、ずっと思っていた。
もしかしたら。
彼も私と同じ気持ちなのではないか、と。
でも、確信は持てない。
「好き」
その一言を伝えるだけで、すべてが変わってしまいそうだった。
だから今日も言えない。
「終わった?」
「うん」
私はノートを閉じる。
教室を出る。
廊下を並んで歩く。
夕陽が窓から差し込み、床をオレンジ色に染めていた。
「今日、なんか静かじゃない?」
彼が言う。
「そうかな」
「うん」
「……ちょっと考え事してた」
「何を?」
「秘密」
私は笑った。
彼も笑う。
「じゃあ、当ててみようかな」
「当たらないよ」
「好きな人のこととか?」
「……え?」
足が止まった。
彼も立ち止まる。
「冗談」
そう言って笑った。
でも、その目は笑っていなかった。
「……そういうの、ずるい」
「何が?」
「何でもない」
私は歩き出した。
校門を出る。
夕暮れの道。
私たちはいつものように並んで歩いていた。
でも、さっきから妙に意識してしまう。
彼の横顔。
彼の声。
そして、時々こちらを見る瞳。
そのたびに、胸が苦しくなる。
もしも。
もしも彼の瞳に映っている私が、ただの友達ではなかったら。
そんなことを考えてしまう。
駅前で、彼が足を止めた。
「ねえ」
「何?」
「さっきの話なんだけど」
「……うん」
彼が私を見る。
まっすぐな瞳。
私は逃げずに、その目を見返した。
言葉がなくても、何かが伝わるような気がした。
彼の瞳に映っている私。
そこには、少し赤くなった頬と、緊張した顔があった。
私は思う。
こんな顔をしている私を見て、彼は何を思っているんだろう。
「……やっぱり何でもない」
彼が目を逸らした。
「え?」
「また明日」
「……うん」
彼は駅へ向かって歩いていく。
私はその背中を見送った。
家に帰ってからも、彼の瞳が頭から離れなかった。
私は鏡の前に立つ。
自分の目を見る。
「……分からないよ」
鏡の中の私は、少し困った顔をしている。
彼の気持ちなんて、分からない。
でも。
自分の気持ちなら、もう分かっている。
私はスマートフォンを手に取った。
メッセージ画面を開く。
『今日はありがとう』
そこまで入力する。
少し迷ってから、送信した。
しばらくして返信が届く。
『こちらこそ』
そして、もう一通。
『明日も一緒に帰ろう』
私は思わず笑った。
翌日の放課後。
彼は教室の前で待っていた。
「帰ろう」
「うん」
並んで歩く。
昨日と同じ道。
昨日と同じ夕暮れ。
でも、今日は少し違った。
彼がこちらを見る。
私も彼を見る。
目が合う。
今度は、どちらも逸らさなかった。
言葉はない。
けれど、不思議と怖くなかった。
もし、この瞳に映る私が。
ただの友達ではないのなら。
いつか、その答えを言葉にしてもらえたらいい。
そして私も、そのときはちゃんと伝えたい。
「好き」という言葉を。
それまでは、この一瞬を大切にしたい。
彼の瞳に映る私と。
私の瞳に映る彼。
二人の間にある、まだ名前のない気持ちを。
夕陽が二人の影を長く伸ばしていた。
私は小さく笑った。
彼も笑った。
言葉はまだない。
それでも。
ほんの少しだけ、気持ちは伝わった気がした。
その瞳 見つめるだけで 伝われば 言葉はいらぬ恋なのだけど
【短歌をテーマにした物語】
放課後の教室には、私と彼の二人だけが残っていた。
窓の外では、夕方の風が校庭の木々を揺らしている。
私は机の上に広げたノートを見つめていた。
けれど、さっきから一行も進んでいない。
理由は簡単だった。
向かいの席に、彼がいるから。
「まだ終わらない?」
彼が笑う。
「うん……もうちょっと」
「じゃあ、俺も待ってる」
「先に帰っていいよ?」
「いいよ。俺も暇だし」
そう言って、彼は頬杖をついた。
そして私を見る。
目が合った。
「……」
慌てて視線をノートに戻す。
胸が、どくんと鳴った。
彼とは、入学してからずっと仲がいい。
休み時間に話したり、一緒に帰ったり。
困っていると助けてくれるし、私が落ち込んでいると、いつも気づいてくれる。
だから私は、ずっと思っていた。
もしかしたら。
彼も私と同じ気持ちなのではないか、と。
でも、確信は持てない。
「好き」
その一言を伝えるだけで、すべてが変わってしまいそうだった。
だから今日も言えない。
「終わった?」
「うん」
私はノートを閉じる。
教室を出る。
廊下を並んで歩く。
夕陽が窓から差し込み、床をオレンジ色に染めていた。
「今日、なんか静かじゃない?」
彼が言う。
「そうかな」
「うん」
「……ちょっと考え事してた」
「何を?」
「秘密」
私は笑った。
彼も笑う。
「じゃあ、当ててみようかな」
「当たらないよ」
「好きな人のこととか?」
「……え?」
足が止まった。
彼も立ち止まる。
「冗談」
そう言って笑った。
でも、その目は笑っていなかった。
「……そういうの、ずるい」
「何が?」
「何でもない」
私は歩き出した。
校門を出る。
夕暮れの道。
私たちはいつものように並んで歩いていた。
でも、さっきから妙に意識してしまう。
彼の横顔。
彼の声。
そして、時々こちらを見る瞳。
そのたびに、胸が苦しくなる。
もしも。
もしも彼の瞳に映っている私が、ただの友達ではなかったら。
そんなことを考えてしまう。
駅前で、彼が足を止めた。
「ねえ」
「何?」
「さっきの話なんだけど」
「……うん」
彼が私を見る。
まっすぐな瞳。
私は逃げずに、その目を見返した。
言葉がなくても、何かが伝わるような気がした。
彼の瞳に映っている私。
そこには、少し赤くなった頬と、緊張した顔があった。
私は思う。
こんな顔をしている私を見て、彼は何を思っているんだろう。
「……やっぱり何でもない」
彼が目を逸らした。
「え?」
「また明日」
「……うん」
彼は駅へ向かって歩いていく。
私はその背中を見送った。
家に帰ってからも、彼の瞳が頭から離れなかった。
私は鏡の前に立つ。
自分の目を見る。
「……分からないよ」
鏡の中の私は、少し困った顔をしている。
彼の気持ちなんて、分からない。
でも。
自分の気持ちなら、もう分かっている。
私はスマートフォンを手に取った。
メッセージ画面を開く。
『今日はありがとう』
そこまで入力する。
少し迷ってから、送信した。
しばらくして返信が届く。
『こちらこそ』
そして、もう一通。
『明日も一緒に帰ろう』
私は思わず笑った。
翌日の放課後。
彼は教室の前で待っていた。
「帰ろう」
「うん」
並んで歩く。
昨日と同じ道。
昨日と同じ夕暮れ。
でも、今日は少し違った。
彼がこちらを見る。
私も彼を見る。
目が合う。
今度は、どちらも逸らさなかった。
言葉はない。
けれど、不思議と怖くなかった。
もし、この瞳に映る私が。
ただの友達ではないのなら。
いつか、その答えを言葉にしてもらえたらいい。
そして私も、そのときはちゃんと伝えたい。
「好き」という言葉を。
それまでは、この一瞬を大切にしたい。
彼の瞳に映る私と。
私の瞳に映る彼。
二人の間にある、まだ名前のない気持ちを。
夕陽が二人の影を長く伸ばしていた。
私は小さく笑った。
彼も笑った。
言葉はまだない。
それでも。
ほんの少しだけ、気持ちは伝わった気がした。



