恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
君の目に 映る私を 知りたくて 鏡ばかりを 見つめてしまう


【短歌をテーマにした物語】
朝、家を出る前。

私は玄関の鏡を見つめていた。

前髪を少し直す。

制服の襟を整える。

それから、右を向く。

左を向く。

「……変じゃないよね」

誰に聞くでもなく呟く。

別に、今日は特別な日じゃない。

体育祭でも、文化祭でもない。

ただの平日。

なのに、どうしてこんなに鏡を見ているのか。

理由は分かっている。

今日も、君に会うからだ。

教室に入ると、君はいつもの席にいた。

友達と話している。

私は「おはよう」と声をかけた。

「おはよう」

君が笑う。

たったそれだけ。

それだけなのに、胸が跳ねる。

私は自分の席へ向かいながら、こっそり頬に触れた。

変な顔をしていなかったかな。

笑い方、おかしくなかったかな。

そんなことばかり考えてしまう。

昼休み。

友達と話していると、君がこちらへやってきた。

「この前の宿題、見せてもらっていい?」

「うん」

私はノートを渡す。

君が隣の席に座る。

近い。

いつもより近い。

私はノートを見つめたまま、顔を上げられない。

「字、きれいだよな」

「そう?」

「うん。俺、字汚いから羨ましい」

「そんなことないよ」

「いや、ほんと」

君が笑う。

私はつられて笑った。

その瞬間。

君の目と、私の目が合った。

一秒。

たった一秒。

でも、その一秒がやけに長く感じられた。

君の瞳に、私はどう映っていたんだろう。

笑っていた?

困った顔をしていた?

それとも――。

何とも思われていない?

分からない。

分からないからこそ、知りたくなる。

放課後。

私はトイレの鏡の前に立っていた。

髪を整える。

頬を確認する。

笑ってみる。

「……普通」

もう一度笑う。

「これなら……」

そこで、自分がおかしくなって笑った。

「私、何してるんだろ」

鏡の中の自分は、少し困ったような顔をしている。

君の目に映る私は、どんな顔なんだろう。

可愛く見えるだろうか。

それとも、ただのクラスメイトだろうか。

そんなことを考えているうちに、鏡を見る回数が増えていた。

朝。

昼休み。

放課後。

家に帰ってからも。

私は何度も鏡を見る。

その夜。

机に向かって宿題をしていると、スマートフォンが震えた。

君からだった。

『今日、ありがとう』

私は画面を見つめる。

何のことだろう。

『何が?』

すぐに返事が来る。

『ノート貸してくれて』

『どういたしまして』

そこまで送って、会話は終わった。

私はスマートフォンを机に置く。

そして、また鏡を見る。

自分でも呆れる。

「……君の目に映ってる私なんて、分かるわけないじゃん」

そう言いながら、鏡の中の自分と目が合う。

私は少し考える。

もしかしたら。

君の目にどう映っているかを気にするより。

自分が君を見ているとき、どんな顔をしているのか。

そっちのほうが、ずっと大切なのかもしれない。

翌朝。

学校へ向かう前、私はいつものように鏡の前に立った。

前髪を直す。

制服の襟を整える。

でも、昨日までとは少し違った。

鏡の中の自分に向かって、私は笑ってみる。

「今日も、ちゃんと笑おう」

誰かに好かれるためじゃない。

君と話せたときに、嬉しいと思える自分でいたい。

そう思った。

教室に入る。

君がこちらを見る。

「あ、おはよう」

「おはよう」

君が笑う。

私も笑う。

また目が合った。

昨日より少しだけ長く。

私はもう、慌てて目を逸らさなかった。

君の目に映る私が、どんな顔をしているのか。

やっぱり気になる。

すごく気になる。

でも。

いつか聞いてみたい。

「私って、君の目にはどう映ってる?」

その一言を言える日が来たらいい。

そう思いながら、私は君の隣を歩いた。

鏡では分からないことがある。

自分では見られない、自分の姿がある。

それを知るには――。

誰かの目を、まっすぐ見るしかないのだから。