恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
夏の日に アイスを共に 食べながら 溶ける時間を 惜しむ十字路


【短歌をテーマにした物語】
夏の日の帰り道は、いつもより少しだけ長く感じる。

蝉の声が響く午後、私は駅へ向かって歩いていた。

隣には、幼なじみの悠斗がいる。

「暑い……」

私が呟くと、悠斗が笑った。

「じゃあ、アイス買おう」

「賛成」

駅前のコンビニで、私たちはそれぞれ好きなアイスを選んだ。

店を出て、さっそく食べる。

「冷たい!」

「生き返るな」

二人で笑った。

夏の夕方。

空はまだ明るく、道路には長い影が伸びている。

アイスはどんどん溶けていく。

「早く食べないと」

「分かってる」

私は急いで食べる。

けれど、なぜか少し寂しい。

「どうした?」

悠斗が聞いてくる。

「……ううん」

私は首を振った。

本当は分かっていた。

この夏が終われば、私たちは別々の進路の準備で忙しくなる。

今までみたいに、毎日一緒に帰ることはできなくなる。

今日だって、いつもと同じ帰り道。

いつもと同じ会話。

なのに、私はこの時間が終わってしまうのが惜しかった。

「そういえばさ」

悠斗が空を見上げる。

「大学に行ったら、毎日こんなふうに帰れなくなるな」

私はアイスを見つめた。

「……うん」

「寂しい?」

「少しだけ」

「俺も」

その一言に、胸が温かくなる。

蝉の声。

夕方の風。

溶けていくアイス。

全部が、今日しかないものに思えた。

「ねえ」

「ん?」

「ゆっくり歩こう」

「でも、アイス溶けるぞ」

「いいの」

私は笑った。

「今日は、溶けるくらいゆっくりでいい」

悠斗も笑った。

「じゃあ、ゆっくり帰るか」

駅が近づいてくる。

アイスは、もうほとんど残っていない。

「なくなっちゃった」

私が言う。

「そりゃ食べたからな」

「……そうだけど」

「また買えばいいじゃん」

悠斗が言った。

「来年の夏も」

私は顔を上げる。

「来年?」

「うん。来年も一緒に食べよう」

約束できる未来なのかは分からない。

大学生活がどうなるかも分からない。

それでも。

その言葉が嬉しかった。

「うん」

私は笑う。

「絶対ね」

駅前に着く。

いつものように、ここで別れる。

「じゃあ、また」

「うん。またね」

悠斗が手を振る。

私はその姿を見送る。

そして、ふと空を見上げた。

夕焼けの向こうで、蝉が鳴いている。

今年の夏は、もうすぐ終わる。

けれど、今日という日は消えない。

溶けてしまったアイスみたいに、時間は戻らない。

だからこそ。

私は、この帰り道を忘れたくなかった。

来年の夏。

また同じ道を歩けるかは分からない。

それでも私は願う。

今日と同じように笑って、

「暑いね」と言いながら、

また二人でアイスを食べられますように。

そして今度は、今日より少しだけゆっくり歩こう。