恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
友達と 呼ばれる距離が もどかしく あと一歩だけ 君に近づく


【短歌をテーマにした物語】
「おはよう」

朝の教室。

君がいつものように笑う。

「おはよう」

私も笑い返す。

たったそれだけ。

なのに、朝から胸が少しだけ軽くなる。

私と君は、仲のいい友達だ。

休み時間には話す。

一緒に帰ることもある。

くだらないことで笑い合う。

周りからも、よく言われる。

「二人って、本当に仲いいよね」

そのたびに私は笑って答える。

「うん。友達だから」

――友達。

その言葉を口にするたび、胸の奥が少しだけ苦しくなる。

放課後。

教室には、私と君だけが残っていた。

窓の外は夕焼け。

君は机に座りながら、スマートフォンを眺めている。

「今日、一緒に帰る?」

「うん」

いつもの約束。

私は鞄を持った。

「じゃあ行こう」

「待って」

君が立ち上がる。

そのとき、ふと目が合った。

近い。

いつもなら何とも思わない距離なのに、今日は妙に意識してしまう。

「どうした?」

「……なんでもない」

私は目を逸らした。

駅までの道。

私たちは並んで歩いていた。

「そういえばさ」

君が話しかける。

「来週の文化祭、一緒に回らない?」

「え?」

「友達と回る予定だったんだけど、みんな予定が合わなくて」

「……うん」

「じゃあ決まり」

君が笑う。

私は頷く。

嬉しい。

でも。

「友達として」なのだろう。

そう考えると、少しだけ寂しい。

私は歩きながら、君との距離を見る。

ほんの少し。

手を伸ばせば届く距離。

でも、その先には踏み込めない。

文化祭当日。

私たちは一緒に校内を回った。

クラスの出し物を見たり、屋台で食べ物を買ったり。

君は何度も笑った。

「楽しいね」

「うん」

「こういうの、友達と来るのが一番楽しいな」

その言葉に、私は笑顔を作った。

「……そうだね」

胸の奥に、小さな痛みが残った。

夕方。

文化祭が終わり、校門を出る。

君が言った。

「今日はありがと」

「こちらこそ」

「また来年も一緒に回ろうな」

「……来年?」

「うん」

私は少しだけ笑った。

来年も、君の隣にいたい。

でも。

来年も「友達」のままなのかな。

そう思ったら、急に怖くなった。

駅に着く。

いつものように、ここで別れる。

「じゃあ、また明日」

君が手を振る。

私は一歩、踏み出した。

「待って」

君が振り返る。

「どうした?」

「……あのさ」

言葉が詰まる。

好き。

その二文字が喉まで出ているのに、声にならない。

「私……」

君が待っている。

「私、君といると楽しい」

「うん。俺も」

「だから……」

私は拳を握った。

あと一歩。

あと一歩だけ。

友達と呼ばれる距離から、少しだけ近づきたい。

「……明日も一緒に帰っていい?」

言えたのは、それだけだった。

君は少し驚いたあと、笑った。

「もちろん」

「……そっか」

「なんでそんな嬉しそうなの?」

「別に」

私は笑った。

でも、きっと顔には出ている。

次の日。

放課後。

教室を出ると、君が廊下で待っていた。

「帰ろう」

「うん」

二人で歩き出す。

昨日よりほんの少しだけ、君との距離が近い。

肩が触れそうになる。

私は勇気を出して、ほんの少しだけ君の隣へ寄った。

「近くない?」

君が笑う。

「……嫌?」

「ううん」

君も少しだけ近づいた。

「このくらいなら、いいんじゃない?」

胸が大きく鳴った。

まだ「好き」とは言えていない。

まだ私たちは「友達」だ。

それでも。

昨日より、一歩近づけた。

だから今日は、それでいい。

私は君の隣で笑った。

いつか、この距離がもっと近くなる日を願いながら。