恋愛短歌小説~三十一文字から始まる物語。この短歌、恋愛小説にしてみました~

【短歌】
カラフルな マカロン並ぶ 店先で 選べないまま 君を待ってる


【短歌をテーマにした物語】
駅前の小さな洋菓子店には、色とりどりのマカロンが並んでいる。

ピンク。

黄色。

緑。

水色。

紫。

ショーケースの中で、宝石みたいに並んでいた。

私は、その前で立ち止まっている。

「……どれにしよう」

今日は、久しぶりに君と会う日だった。

待ち合わせは午後三時。

まだ十分前。

私は店の前で、何度もスマートフォンを見る。

『着いたら連絡して』

君から届いたメッセージを開いては閉じる。

私は手の中にある小さな紙袋を見つめた。

中には、何も入っていない。

本当は、君にマカロンを買って渡そうと思っていた。

でも。

「何色が好きだったっけ……」

思い出せない。

高校生の頃なら、きっと知っていた。

君が好きな色。

好きな食べ物。

よく聴いていた曲。

でも、離れていた時間が長すぎて、私は少しずつ君のことを知らなくなっていた。

店員さんが声をかけてくる。

「お決まりですか?」

「すみません。まだ……」

私はショーケースを見る。

ピンクは可愛すぎる気がする。

緑は君らしい気もする。

でも、昔の君が好きだった色は何だっただろう。

「……選べない」

思わず呟く。

店員さんが微笑む。

「大切な方へのプレゼントですか?」

「……はい」

そう答えた瞬間。

背後から声がした。

「何を選べないの?」

私は振り返った。

「……あ」

そこに、彼が立っていた。

「久しぶり」

「うん」

少しだけ照れたように笑う。

昔より髪が短くなっていた。

でも、その笑顔は変わっていなかった。

「マカロン買うの?」

「うん。君に」

「俺に?」

「久しぶりに会うから」

彼はショーケースを覗き込む。

「じゃあ、俺が選んでいい?」

「え?」

「これ」

彼が指差したのは、淡い黄色のマカロンだった。

「これがいい」

「黄色?」

「うん」

「好きだったっけ?」

私が聞くと、彼は笑った。

「昔はそんなに好きじゃなかった」

「じゃあ、なんで?」

「今は好きだから」

私は少し驚いた。

「……そっか」

「うん。最近好きになった」

店員さんに黄色のマカロンを包んでもらう。

紙袋を受け取る。

「はい」

「ありがとう」

彼が受け取った。

二人で並んで歩く。

昔のことを少し話す。

仕事のこと。

最近ハマっていること。

共通の友達のこと。

話しているうちに、時間があっという間に過ぎていく。

「そういえば」

彼が言った。

「さっき、何であんなに悩んでたの?」

「……君が何色好きか、分からなかったから」

「そんなことで?」

「そんなことじゃないよ」

私は笑う。

「ずっと会ってなかったから、君のことを知らないことが増えたんだなって思って」

彼は少し黙った。

それから、

「じゃあ、これから知ればいいじゃん」

と言った。

私は足を止めた。

「これから?」

「うん」

彼は少し照れながら笑った。

「また会うんだから」

胸の奥が、ふわっと温かくなった。

夕方。

駅で別れる時間になった。

「今日は楽しかった」

「私も」

「また連絡する」

「うん」

彼は手を振って、改札へ向かっていく。

私はその背中を見送った。

スマートフォンが震える。

『次は何色のマカロンが好きか教えて』

私は笑った。

『じゃあ、次に会ったときに』

送信する。

彼からすぐに返事が来た。

『楽しみにしてる』

私は画面を見ながら笑った。

店先でマカロンを選べなかったのは、きっと自分の気持ちが決まっていなかったからだ。

でも今は違う。

何色が好きかなんて、少しずつ聞けばいい。

どんな毎日を過ごしているのかも。

これから好きになるものも。

これから変わっていくことも。

一つずつ知っていけばいい。

私は駅を出て、振り返る。

夕暮れの街に、洋菓子店のショーケースが輝いていた。

色とりどりのマカロン。

その中に、まだ選んでいない色がいくつもある。

私は少し笑った。

「次は、何色にしようかな」

そう呟きながら、家へ向かって歩き出した。