【短歌】
「また明日」 その一言が 宝物 帰り道には 何度も思う
【短歌をテーマにした物語】
「また明日」
たった五文字の言葉なのに、その一言が私の一日を特別なものに変えていた。
高校二年の春。
私は毎日、同じ時間に同じ道を歩いて帰っていた。
桜並木の続く通学路。
そこで必ず会う人がいた。
同じクラスの神谷悠貴くん。
特別、仲が良いわけではない。
休み時間に少し話すくらい。
一緒に帰る約束をしたこともない。
それでも、校門を出る時間が重なると、彼はいつも笑って言った。
「また明日」
ただ、それだけ。
でも、その言葉を聞くために、私は少しだけ歩く速度を調整していた。
最初は偶然だった。
下駄箱で靴を履き替えるタイミングが同じだった。
廊下で会えば、「今日の授業眠かったね」と話す。
それだけの関係。
だけど、毎日の小さな積み重ねは、いつの間にか私にとって大切なものになっていた。
家に帰ってからも思い出す。
「また明日」
彼の声。
笑った顔。
夕日に照らされた横顔。
たった一言なのに、何度も頭の中で再生してしまう。
六月。
雨の日が続いた。
いつもの帰り道。
私は傘を差しながら、少し寂しい気持ちで歩いていた。
今日は悠貴くんに会えなかった。
たった一日。
それだけなのに、帰り道がいつもより長く感じた。
次の日。
教室に入ると、悠貴くんが声をかけてきた。
「昨日、先に帰ったんだね」
「うん。雨だったから」
「そっか」
彼は少し笑った。
「じゃあ、今日は言えるね」
「え?」
「また明日」
その瞬間、胸が温かくなった。
たぶん彼にとっては、いつもの挨拶。
でも私にとっては、昨日失ったものを取り戻したような気がした。
夏休みが近づく頃、私はある噂を聞いた。
悠貴くんが、夏休み明けに転校するらしい。
信じられなかった。
いつもの帰り道。
彼に聞こうと思った。
でも、怖かった。
「転校するの?」
そう聞いたら、今までの毎日が終わってしまう気がした。
だから、いつものように歩いた。
いつものように、校門を出た。
そして彼が言った。
「俺、夏休み明けに引っ越すんだ」
足が止まった。
「……そっか」
それしか言えなかった。
「ごめん。もっと早く言えばよかった」
「ううん」
私は首を振った。
本当は泣きそうだった。
でも、最後まで笑っていたかった。
「向こうでも元気でね」
すると彼は、少し困ったように笑った。
「うん。でも……」
彼は空を見上げた。
「また明日って言える人がいるって、すごく幸せだった」
胸が締めつけられた。
夏休み前最後の日。
帰り道、桜の木は青々とした葉を揺らしていた。
春とは違う景色。
でも、同じ道。
彼はいつもの場所で立ち止まった。
「じゃあ……」
少し間を置いて。
「また明日」
私は笑った。
「うん。また明日」
本当は明日、会えないことを知っている。
でも、その言葉は嘘じゃなかった。
いつかまた会える未来を願う、小さな約束だった。
……それから長い時が過ぎた。
久しぶりに母校の前を通った。
桜並木は昔と変わらず、春風に揺れていた。
あの日の帰り道を思い出す。
「また明日」
たった一言。
でも、あの言葉があったから、私は毎日を楽しみにできた。
人を好きになること。
誰かを大切に思うこと。
その始まりは、案外小さな言葉なのかもしれない。
私は桜の下で、小さくつぶやいた。
「また明日」
誰に届くでもない言葉。
でも、あの日の宝物は、今も胸の中で輝いていた。
「また明日」 その一言が 宝物 帰り道には 何度も思う
【短歌をテーマにした物語】
「また明日」
たった五文字の言葉なのに、その一言が私の一日を特別なものに変えていた。
高校二年の春。
私は毎日、同じ時間に同じ道を歩いて帰っていた。
桜並木の続く通学路。
そこで必ず会う人がいた。
同じクラスの神谷悠貴くん。
特別、仲が良いわけではない。
休み時間に少し話すくらい。
一緒に帰る約束をしたこともない。
それでも、校門を出る時間が重なると、彼はいつも笑って言った。
「また明日」
ただ、それだけ。
でも、その言葉を聞くために、私は少しだけ歩く速度を調整していた。
最初は偶然だった。
下駄箱で靴を履き替えるタイミングが同じだった。
廊下で会えば、「今日の授業眠かったね」と話す。
それだけの関係。
だけど、毎日の小さな積み重ねは、いつの間にか私にとって大切なものになっていた。
家に帰ってからも思い出す。
「また明日」
彼の声。
笑った顔。
夕日に照らされた横顔。
たった一言なのに、何度も頭の中で再生してしまう。
六月。
雨の日が続いた。
いつもの帰り道。
私は傘を差しながら、少し寂しい気持ちで歩いていた。
今日は悠貴くんに会えなかった。
たった一日。
それだけなのに、帰り道がいつもより長く感じた。
次の日。
教室に入ると、悠貴くんが声をかけてきた。
「昨日、先に帰ったんだね」
「うん。雨だったから」
「そっか」
彼は少し笑った。
「じゃあ、今日は言えるね」
「え?」
「また明日」
その瞬間、胸が温かくなった。
たぶん彼にとっては、いつもの挨拶。
でも私にとっては、昨日失ったものを取り戻したような気がした。
夏休みが近づく頃、私はある噂を聞いた。
悠貴くんが、夏休み明けに転校するらしい。
信じられなかった。
いつもの帰り道。
彼に聞こうと思った。
でも、怖かった。
「転校するの?」
そう聞いたら、今までの毎日が終わってしまう気がした。
だから、いつものように歩いた。
いつものように、校門を出た。
そして彼が言った。
「俺、夏休み明けに引っ越すんだ」
足が止まった。
「……そっか」
それしか言えなかった。
「ごめん。もっと早く言えばよかった」
「ううん」
私は首を振った。
本当は泣きそうだった。
でも、最後まで笑っていたかった。
「向こうでも元気でね」
すると彼は、少し困ったように笑った。
「うん。でも……」
彼は空を見上げた。
「また明日って言える人がいるって、すごく幸せだった」
胸が締めつけられた。
夏休み前最後の日。
帰り道、桜の木は青々とした葉を揺らしていた。
春とは違う景色。
でも、同じ道。
彼はいつもの場所で立ち止まった。
「じゃあ……」
少し間を置いて。
「また明日」
私は笑った。
「うん。また明日」
本当は明日、会えないことを知っている。
でも、その言葉は嘘じゃなかった。
いつかまた会える未来を願う、小さな約束だった。
……それから長い時が過ぎた。
久しぶりに母校の前を通った。
桜並木は昔と変わらず、春風に揺れていた。
あの日の帰り道を思い出す。
「また明日」
たった一言。
でも、あの言葉があったから、私は毎日を楽しみにできた。
人を好きになること。
誰かを大切に思うこと。
その始まりは、案外小さな言葉なのかもしれない。
私は桜の下で、小さくつぶやいた。
「また明日」
誰に届くでもない言葉。
でも、あの日の宝物は、今も胸の中で輝いていた。



