【短歌】
別れ道 振り向かなかった 君の背を 今も心で 追いかけている
【短歌をテーマにした物語】
「じゃあ、元気で」
駅へ向かう道の途中。
別れ道に立って、彼はそう言った。
「うん」
私は笑って答える。
春風が吹いていた。
桜の花びらが、二人の足元を転がっていく。
彼は右の道を見る。
私は左の道を見る。
「じゃあね」
「……うん。またね」
彼が歩き出した。
私はその場に立ったまま、彼の背中を見つめる。
数歩。
十歩。
少しずつ遠ざかっていく。
「……待って」
声にはならなかった。
唇だけが動く。
彼は振り返らない。
私は追いかけなかった。
ただ、その背中が見えなくなるまで見送った。
今日は大学の卒業式だった。
四年間付き合った彼とは、今日で離ればなれになる。
彼は遠くの会社へ。
私は地元の会社へ。
「遠距離でも大丈夫」
そう思っていた。
けれど、就職が決まってから、二人とも忙しくなった。
会える日を決めようとしても予定が合わない。
電話をしても、疲れて眠ってしまう。
そんな日が続いていた。
だから今日、私は彼に聞きたかった。
「これからも一緒にいよう」と。
けれど、言えなかった。
私は駅へ向かう。
何度も振り返りそうになる。
でも、振り返れない。
右の道へ進んだ彼は、もう見えない。
スマートフォンを取り出す。
メッセージを開く。
最後のやり取りは、
『今日はありがとう』
『こちらこそ』
それだけ。
私は文字を打つ。
『やっぱり、まだ話したい』
指が止まる。
送れない。
私は画面を閉じた。
駅に着く。
電車が来るまで、まだ時間がある。
ベンチに座り、ぼんやり桜を眺める。
スマートフォンが震えた。
彼からだった。
『今、駅に着いた』
私は驚いて画面を見る。
続けて、もう一通。
『さっき、ちゃんと言えなかった』
胸が高鳴る。
『俺、離れても終わりにしたくない』
私は画面を見つめた。
涙が出そうになる。
急いで返信する。
『私も』
送信。
すぐに既読がついた。
『じゃあ、また会おう』
私は笑った。
でも、彼はもう駅の反対側にいる。
すぐに会える距離ではない。
それでも。
終わったわけではない。
私は駅のホームへ向かう。
その途中で、ふと立ち止まった。
さっきの別れ道が、遠くに見える。
あの道の先には、もう彼はいない。
でも、今度は追いかける必要がない。
私たちは別々の道を歩きながら、また会う約束をした。
電車がホームへ滑り込んでくる。
私は乗り込む。
窓の外を見ながら、スマートフォンを握る。
またメッセージが届いた。
『着いたら連絡して』
私は笑って、
『うん』
と返した。
電車が動き出す。
桜並木が後ろへ流れていく。
私はもう、振り返らない。
前を向いたまま、次に会える日を思っている。
そして心の中では――。
遠ざかっていく彼の背中を、まだほんの少しだけ追いかけていた。
別れ道 振り向かなかった 君の背を 今も心で 追いかけている
【短歌をテーマにした物語】
「じゃあ、元気で」
駅へ向かう道の途中。
別れ道に立って、彼はそう言った。
「うん」
私は笑って答える。
春風が吹いていた。
桜の花びらが、二人の足元を転がっていく。
彼は右の道を見る。
私は左の道を見る。
「じゃあね」
「……うん。またね」
彼が歩き出した。
私はその場に立ったまま、彼の背中を見つめる。
数歩。
十歩。
少しずつ遠ざかっていく。
「……待って」
声にはならなかった。
唇だけが動く。
彼は振り返らない。
私は追いかけなかった。
ただ、その背中が見えなくなるまで見送った。
今日は大学の卒業式だった。
四年間付き合った彼とは、今日で離ればなれになる。
彼は遠くの会社へ。
私は地元の会社へ。
「遠距離でも大丈夫」
そう思っていた。
けれど、就職が決まってから、二人とも忙しくなった。
会える日を決めようとしても予定が合わない。
電話をしても、疲れて眠ってしまう。
そんな日が続いていた。
だから今日、私は彼に聞きたかった。
「これからも一緒にいよう」と。
けれど、言えなかった。
私は駅へ向かう。
何度も振り返りそうになる。
でも、振り返れない。
右の道へ進んだ彼は、もう見えない。
スマートフォンを取り出す。
メッセージを開く。
最後のやり取りは、
『今日はありがとう』
『こちらこそ』
それだけ。
私は文字を打つ。
『やっぱり、まだ話したい』
指が止まる。
送れない。
私は画面を閉じた。
駅に着く。
電車が来るまで、まだ時間がある。
ベンチに座り、ぼんやり桜を眺める。
スマートフォンが震えた。
彼からだった。
『今、駅に着いた』
私は驚いて画面を見る。
続けて、もう一通。
『さっき、ちゃんと言えなかった』
胸が高鳴る。
『俺、離れても終わりにしたくない』
私は画面を見つめた。
涙が出そうになる。
急いで返信する。
『私も』
送信。
すぐに既読がついた。
『じゃあ、また会おう』
私は笑った。
でも、彼はもう駅の反対側にいる。
すぐに会える距離ではない。
それでも。
終わったわけではない。
私は駅のホームへ向かう。
その途中で、ふと立ち止まった。
さっきの別れ道が、遠くに見える。
あの道の先には、もう彼はいない。
でも、今度は追いかける必要がない。
私たちは別々の道を歩きながら、また会う約束をした。
電車がホームへ滑り込んでくる。
私は乗り込む。
窓の外を見ながら、スマートフォンを握る。
またメッセージが届いた。
『着いたら連絡して』
私は笑って、
『うん』
と返した。
電車が動き出す。
桜並木が後ろへ流れていく。
私はもう、振り返らない。
前を向いたまま、次に会える日を思っている。
そして心の中では――。
遠ざかっていく彼の背中を、まだほんの少しだけ追いかけていた。



